すくすくベリー研究所
発達心理学

ショート動画、子どもの「集中力」とどう関係? 年齢が低いほど影響が大きいとの報告

📄 Short-Form Video Media Use Is Associated With Greater Inattentive Symptoms in Thai School-Age Children: Insights From a Cross-Sectional Survey.

✍️ Chiencharoenthanakij, R., Yothamart, K., Chantathamma, N., Sukhumdecha, W., Charoensri, S., Thanyakulsajja, B., Anuroj, K.

📅 論文公開: 2025年1月

スクリーンタイム 集中力 実行機能 学童期

3つのポイント

  1. 1

    短い動画(ショート動画)をよく見る6〜12歳の子どもは、集中力が続きにくい「不注意」な傾向が強いことが分かりました。

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    この傾向は、特に年齢が低い(6歳に近い)子どもほど強く見られました。

  3. 3

    一方で、ショート動画の視聴は、落ち着きのなさ(多動・衝動性)や反抗的な態度とは直接の関連が見られませんでした。

論文プロフィール

  • 著者・発表年など: Chiencharoenthanakij, R. et al. (2025). Brain and Behavior.
  • 調査対象: タイの6歳から12歳の子どもを持つ保護者528名。
  • 調査内容: ショート動画の視聴習慣と、子どもの「集中し続ける力(注意機能)」や「落ち着き(多動・衝動性)」「反抗的な態度」といった行動特性との関連を調べました。

エディターズ・ノート

スマートフォンやタブレットが身近になり、ショート動画にお子さんが夢中になる姿は、多くのご家庭で見られる光景かもしれません。

その影響について様々な情報が飛び交う中、「実際のところ、科学的には何が分かっているの?」という疑問に答えるため、私たちはこの最新の研究論文を選びました。

ご家庭でのルール作りや関わり方のヒントになれば幸いです。

実験デザイン

この研究は、タイの病院を訪れた6歳から12歳の子どもを持つ保護者528名を対象とした、質問紙による調査です。

保護者は、お子さんの普段のショート動画の視聴時間や、日常生活での行動(「課題に集中できない」「そわそわしてじっとしていられない」など)について回答しました。

その結果、ショート動画の視聴時間が長い子どもほど、「不注意」に関する項目のスコアが高い、つまり集中力が途切れやすい傾向にあることが示されました。

ショート動画視聴時間と不注意傾向の関連(概念図) 0 14 28 42 56 70 不注意傾向スコア 30 視聴時間が短い 70 視聴時間が長い
ショート動画視聴時間と不注意傾向の関連(概念図)
項目 不注意傾向スコア
視聴時間が短い群 30
視聴時間が長い群 70
ショート動画視聴時間と不注意傾向の関連(概念図)

特に興味深いのは、この関連が年齢が低い子どもほど強く見られた点です。 脳の前頭前野(思考や判断を司る部分)がまさに発達している最中の学童期初期の子どもたちにとって、速いペースで次々と情報が切り替わるショート動画の刺激が、注意機能の発達に何らかの影響を与えている可能性が示唆されます。

🔍 この研究の限界:「原因」とまでは言えない?

今回の研究は「横断的調査」という手法で行われました。これは、ある一時点でのスナップショットを撮るようなものです。

そのため、「ショート動画をたくさん見る」ことと「不注意傾向が高い」ことの間に関連があることは分かりましたが、「ショート動画が原因で不注意になる」と断定することはできません。

もしかすると、もともと注意を集中させることが苦手な子どもが、手軽で刺激的なショート動画に惹きつけられやすい、という逆の因果関係も考えられます。

この点を明らかにするには、同じ子どもたちを長期間追跡する 縦断研究 が必要になります。

古典知見との接続

「目の前の課題に集中する」「他のことに気を取られない」といった力は、心理学で 実行機能 と呼ばれる、脳の司令塔のような働きの一部です。

実行機能は生まれつき備わっているわけではなく、様々な経験を通じて少しずつ発達していきます。

ロシアの心理学者ヴィゴツキーは、子どもが一人ではできないことも、大人が少し手助けすることで達成できるようになる領域を 「最近接発達領域」 と呼びました。

例えば、お子さんがおもちゃの片付けに集中できない時、「まずは赤いブロックを箱に入れようか」と声をかけるのは、まさにこの考え方に基づいた 足場かけ(スキャフォールディング) です。

大人が注意を向ける先を具体的に示してあげることで、子どもは「集中する」というスキルを少しずつ自分のものにしていくのです。

🔍 実行機能の3つの柱

実行機能 は、大きく3つの力で構成されていると考えられています。

  • ワーキングメモリ: 会話の内容を覚えておいたり、計算の途中の数字を記憶したりする「頭の中のメモ帳」のような力。
  • 抑制制御: 衝動を抑えたり(お菓子を我慢する)、関係ない情報に惑わされずに集中したりする力。今回の研究の「注意機能」は、主にここに関わります。
  • 認知的柔軟性: 急な予定変更に対応したり、遊びのルールが変わっても頭を切り替えたりする力。

これらの力は互いに関連し合いながら、学習や社会生活の土台を支えています。

すくすくベリーとしての解釈

今回の研究結果は、私たち「すくすくベリー」がプロダクトを設計する上で、非常に重要な示唆を与えてくれます。

ログ解析とフィードバックへの応用

すくすくベリーは、アプリでの遊びのログから「一つの課題に集中できた時間」や「注意がそれた回数」などをAIが解析します。

今回の研究は、そうしたログを解釈する際に、「メディア視聴の習慣」という生活背景を考慮に入れることの重要性を示しています。

例えば、「今日は集中が途切れやすい様子が見られますね。もしかしたら、アプリを使う前に強い刺激の動画を見ていた影響もあるかもしれません」といった、よりパーソナライズされたフィードバックを生成するための科学的根拠の一つとなります。

私たちは、「集中できない」という表面的な行動だけを評価するのではなく、その背景にある環境要因との相互作用として子どもの発達を捉えることを大切にしています。


ご家庭で今日からできること

この研究結果は、ショート動画を完全に禁止すべきだ、と結論付けているわけではありません。大切なのは、メディアとの付き合い方を親子で一緒に考えていくことです。

一つのヒントとして、「受動的な時間」と「能動的な時間」のバランスを意識してみてはいかがでしょうか。

ショート動画を視聴するのは、次々と情報を受け取る「受動的な」時間です。その時間も楽しみつつ、視聴後には、ブロックで何かを作ったり、絵を描いたり、おままごとをしたりといった、自分で考えて手を動かす「能動的な」遊びに誘ってみる。

そうすることで、お子さんが自分の内側から興味や集中力を引き出す機会を、自然と増やすことができるかもしれません。

読後感

テクノロジーが急速に進化する中で、子どもたちを取り巻く環境も大きく変化しています。

新しいメディアとの付き合い方に、保護者の皆さんが戸惑いを感じるのは当然のことです。

今回の論文をきっかけに、少し立ち止まって考えてみる時間を持つのも良いかもしれません。

あなたのお子さんは、どんな活動になら時間を忘れて夢中になれますか? その「好き」というエネルギーを、健やかな集中力を育むための栄養として、どのように活かしていけるでしょうか。