子育て論文研究室
発達心理学

心の育ちを診断名で区切らずに眺める — 思春期の社会情動的なプロフィール

📄 Transdiagnostic profiles of socio-affective functioning in adolescents at-risk of poor mental health.

✍️ Lloyd, A, Astle, D, Wu, TC, Steinbeis, N, Chokhani, R, Lucas, L, Fearon, P, Viding, E

📅 論文公開: 2026年1月

思春期 感情のケア こころの発達 社会性 メンタルヘルス

3つのポイント

  1. 1

    心の不調は診断名ごとに切り分けるより、複数の分野に共通する土台から眺めようという考え方が広がっています。

  2. 2

    12〜14歳の子を対象に、社会性や感情の特徴を手がかりに、似た者どうしのいくつかのグループへと自然に分かれる様子が見えてきました。

  3. 3

    アンケートから見えたグループの違いは心の状態とゆるやかに結びつきましたが、あくまで探索的な段階の知見です。

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Lloyd, A. ほか(2026年)/JCPP Advances
  • 調査対象: 心の不調が起きやすい状況にある12〜14歳の思春期の子どもたち
  • 調査内容: 社会性や感情の受けとめ方に関わるいくつもの指標(本人が答える質問紙と、実際に取り組む課題)を集め、あらかじめ診断名で分けるのではなく、データそのものから「似た特徴を持つ子どうしのまとまり(クラスター)」を見つけ出す方法を用いました

エディターズ・ノート

思春期は、心の不調が芽生えたり強まったりしやすい時期だと言われます。従来はそれを診断名ごとに切り分けて考えてきましたが、近年は診断の枠を越えて共通する土台に目を向ける「横断診断的(transdiagnostic)」な見方が注目されています。子どもの心を早い段階からラベルで固めずに、丁寧に眺めようとする姿勢に、今の子育てにも通じるものを感じ、お届けします。

実験デザイン

この研究では、子どもたちの社会性や感情に関わるたくさんの情報を集め、それをもとにコンピュータが「似た特徴を持つ子どうし」を自動でグループ分けしていきました。あらかじめ「不安の子」「落ち込みの子」と診断名で振り分けるのではなく、データが語る自然なまとまりを見つけようとしたのが特徴です。

その結果、本人が答える質問紙からは信頼できる3つのまとまりが、実際に取り組む課題からは4つのまとまりが浮かび上がりました。そして質問紙から見えたグループどうしを比べると、心の状態の全体的な傾向とゆるやかに結びつく違いが見られたと報告されています。ただし課題から見えたグループでは、その結びつきは限られていました。

🔍 「横断診断的」ってどういう考え方?

これまで心の不調は、「不安症」「うつ」といった診断名ごとに、別々のものとして扱われることが多くありました。

横断診断的なアプローチは、そうした枠を一度わきに置いて、「診断名が違っても共通して見られる土台(たとえば感情の受けとめ方や人との関わり方)」に目を向けます。子どもを一つの箱に入れて分類するのではなく、いくつもの側面が重なり合う姿として捉えようとする見方です。

🔍 この研究の読み方(限界)
  • これは一時点で調べた横断研究です。「この特徴があるから、将来こうなる」といった因果や予測を示すものではありません。
  • グループ分けはデータから導いたもので、一人ひとりの子に貼るラベルではありません。同じ子でも、見る側面や時期によって位置づけは変わりえます。
  • 著者自身が、こうしたプロフィールは今後の支援のヒントを探るための出発点だと位置づけています。確定した結論ではなく、探索の途中の段階です。

古典知見との接続

エリクソンは、思春期を「自分とは何者か」という問いに向き合う時期として描きました。人との関わりや感情の揺れを通して、少しずつ自分の輪郭を確かめていく——その過程は、まっすぐ一本道ではなく、行きつ戻りつしながら進むものです。

今回の研究が診断名で子どもを切り分けず、いくつもの側面が重なり合うまとまりとして眺めようとしたことは、この古典的なまなざしと静かに響き合います。心の育ちは、一つの名前に収まりきらない——だからこそ、複数の側面をやわらかく束ねて捉える視点が、思春期の子に寄り添ううえで手がかりになるのかもしれません。

読後感

わたしたちはつい、子どもの姿を一つの言葉でまとめて理解したくなります。けれど心の育ちは、そんなに簡単には一つの名前に収まらないのかもしれません。

今日、お子さんのどんな一面が、いつもとは少し違って見えましたか。