子育て論文研究室
神経科学

いつも心にあなたがいる — 協同遊びで響き合う母と2歳児の脳

📄 You Are Always on My Mind: Neural Synchrony Between Mothers and Their 2-Year-Olds During Collaborative Play.

✍️ Terry, R, St Clair, V, Pinti, P, Mareschal, D

📅 論文公開: 2026年

親子の絆 協同遊び 脳科学 2歳児 共同注意

3つのポイント

  1. 1

    母親と2歳児が一緒にレゴで遊ぶとき、二人の脳の活動がタイミングを合わせて響き合う様子が捉えられました。

  2. 2

    カーテンで仕切られて別々に作業していても脳の響き合いは続き、見えない相手を思い描いていた可能性が示されました。

  3. 3

    参加はわずか20組で、この段階では『こういう傾向が見えた』という探索的な発見にとどまります。

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Terry, R. ほか(2026年)/Developmental Science
  • 調査対象: 母親と子どもの20組。子どもは生後24〜36か月(平均30.15か月)
  • 調査内容: 親子でレゴ・デュプロを「一緒に作る」場面と「別々に作る」場面をつくり、二人の脳の活動がどれくらいタイミングを合わせて動くか(親子間の神経同期)を、脳の血流を測る fNIRS という装置で同時計測しました。

エディターズ・ノート

「一緒に何かをする」という当たり前の営みの中で、親子の脳では何が起きているのでしょうか。これまで学齢期の子で報告されてきた「親子の脳の響き合い」が、協同の力がまさに芽生え始める2歳児でも見られるのか。その最初の一歩を丁寧に確かめた研究として、今の子育てにそっと寄り添う知見だと考え、お届けします。

実験デザイン

この研究では、母親と子どもの頭に光を使った小型のセンサー(fNIRS)を装着し、二人の脳の活動を同時に記録しました。親子は「一緒にレゴを組み立てる(協同)」場面と、「カーテンで仕切られて別々に組み立てる(個別)」場面の両方に取り組みます。

分析には、二つの信号がどれだけ同じタイミングで動いたかを見る手法(ウェーブレット・コヒーレンス)が使われました。その結果、協同作業のときには親子の脳の活動が特定の場所どうしで響き合う様子が捉えられました。具体的には、一緒に作るときは子どもの左の前頭前野と母親の右の側頭頭頂接合部(相手の意図を読むときに関わる領域)が、別々に作るときは反対側どうしが、より強く同期していたと報告されています。

興味深いことに、カーテンで見えなくなった個別の場面でも響き合いは消えず、姿が見えなくても互いを心に思い描き続けていた可能性が示されました。タイトルの「いつも心にあなたがいる」は、この様子を表しています。

🔍 fNIRSハイパースキャニングって?

fNIRS(近赤外分光法)は、頭にあてた光で脳の血流の変化をやさしく測る方法です。MRI のように大きな装置に入る必要がなく、体を動かしても計測しやすいため、じっとしていられない小さな子どもや、遊んでいる親子の計測に向いています。

この装置を親子2人に同時につけて、脳の活動を並べて見るのが「ハイパースキャニング」です。一人の脳ではなく、二人の脳の”あいだ”で起きることを覗ける点が新しさです。

🔍 この研究の読み方(限界)
  • 参加したのは20組と少なく、結果は「はっきり決まった事実」ではなく「こういう傾向が見えた」という探索的な段階です。
  • 脳の響き合いと行動の因果関係(響き合うから協力が上手になる、など)までは、この研究だけでは言えません。
  • 検査室に別の研究者がもう一人いると同期の様子が変わる傾向も見られており、まわりの状況に結果が左右される可能性も残っています。

古典知見との接続

一人ではまだ難しいことも、大人がそばで支えれば取り組める——ヴィゴツキーが 発達の最近接領域 と呼んだこの領域は、まさに親子の協同作業の中に生まれます。今回の研究は、その協同が起きている瞬間に、親子の脳がタイミングを合わせて動いていることを可視化したとも読めます。

さらに、姿が見えなくても相手を思い描き続けていたという結果は、 アタッチメント(愛着) 研究が語ってきた「心の中に相手を住まわせる」という営みと重なります。ボウルビィは、子どもが養育者の存在を心の中に携えて世界を探索していくと考えました。見えなくても「あなたがそこにいる」と感じられることが、子どもの安心とつながりを支えているのかもしれません。

読後感

姿が見えなくても、心の中で相手を思い描き続ける。それは大人にとっても、大切な人との関係を支えている静かな力です。

今日、離れて過ごす時間の中で、あなたはお子さんのどんな様子をふと思い浮かべていましたか。