子育て論文研究室
発達心理学

画面の向こうの『おいしそう』— 思春期の食欲とデジタルな食情報

📄 From screens to snacks: social media exposure and food consumption triggers among overweight and obese adolescents - evidence from a cross-sectional, mixed-methods approach.

✍️ Hussein, ZEH, Painelli, VS, Poretti, S, Branco, BHM

📅 論文公開: 2026年1月

3つのポイント

  1. 1

    太りぎみ・肥満の思春期の子ども35名を対象に、デジタルな食の情報が食欲にどう働くかを調べた研究です。

  2. 2

    画面を見る時間は1日およそ5〜7時間と長く、食べたい気持ちは映像や音、憧れの発信者やブランドと結びついていました。

  3. 3

    35名の一時点の調査のため因果とは言えませんが、デジタルな食環境の『質』に目を向ける手がかりになります。

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Hussein, ZEH. ほか(2026年)/BMC Public Health
  • 調査対象: ブラジル南部に暮らす10〜17歳の思春期の子ども35名。いずれも太りぎみ、または肥満の範囲にあると判定された子どもたち
  • 調査内容: 生活背景のアンケート、1日あたりの画面視聴時間、24時間思い出し法による食事記録(加工の度合いで分類するNOVA分類を使用)、体組成の測定に加えて、食の広告についての自由記述を集め、その言葉をテキスト分析ソフトで読み解く「数と語りの両面」からの調査を行いました

エディターズ・ノート

食べたいという気持ちは、お腹の空き具合だけで決まるわけではありません。近年、動画や画像といったデジタルな食情報が、子どもの食の選び方にどう関わるのかが少しずつ調べられています。この研究は、思春期の子どもたち自身の言葉に耳を傾け、その背景を数字と語りの両面から丁寧に描こうとした一本として、今の暮らしに寄り添うと考えお届けします。

実験デザイン

この研究は、食事の記録・画面視聴時間・体組成という「数値のデータ」と、食の広告について子どもたちが自由に語った「言葉のデータ」を組み合わせた、横断・混合手法の調査です。ある一時点の様子を切り取って見るデザインで、原因と結果の順序までは特定していません。

数値の面では、子どもたちの画面視聴時間は1日およそ5〜7時間(5.4〜7.2時間)と長く、食事は加工の度合いが高い食品が多くを占めていました。男女の大きな差は、コンピュータの使用が男の子でやや多かった点を除いてほとんど見られませんでした。一方で語りの分析からは、食べたい気持ちが映像や音、憧れの発信者の存在やブランドの印象と結びついていたことがうかがえました。同じ広告でも、女の子は見た目や雰囲気の美しさに、男の子はブランドをはっきり打ち出す表現に反応しやすい、といった傾向の違いも報告されています。

🔍 混合手法(ミックスド・メソッド)ってどんな調べ方?

混合手法とは、数字で測るデータと、言葉で語られるデータの両方を集めて、一つの現象を立体的に理解しようとする研究の進め方です。

たとえば「1日何時間画面を見たか」は数字でとらえられますが、「なぜそれを食べたくなったのか」は本人の言葉を聞かないと見えてきません。この研究は、子どもたち自身の語りを大切にすることで、数字だけでは拾えない気持ちの手ざわりに近づこうとしました。

🔍 この研究の読み方(限界)
  • 参加したのは35名で、ブラジル南部の特定の地域の子どもたちが対象です。ここで見えたことが、すべての家庭や地域にそのまま当てはまるとは限りません。
  • ある一時点を切り取った横断調査のため、「デジタルな食情報を見たから食行動が変わった」という原因と結果の順序までは、この研究だけでは決められません。
  • 体型は多くの要因が重なって形づくられるもので、画面や広告だけで説明できるものではありません。特定の子や家庭の責任を問うものではない、という前提で読むことが大切です。

古典知見との接続

思春期は、エリクソンが「自分とは何者か」を探し、確かめていく時期として描いた季節です。この時期の子どもは、まわりの世界や憧れの誰かの姿を鏡にしながら、自分の好みや価値観を少しずつ形づくっていきます。だからこそ、外から届くイメージにひらかれていて、影響も受けやすいのです。

繰り返し触れる食の広告は、「このブランドといえばこの味」といった心の中の枠組み( スキーマ(認知の枠組み) )を少しずつ育てていきます。今回の研究で子どもたちが語った「憧れの発信者」や「ブランドの印象」への反応は、まさにこの枠組みが働いている姿と重なります。自分らしさを探すただなかで、憧れの誰かの姿が食の選択にそっと重なっていく——そう考えると、思春期の食は、ただの好き嫌いではなく、育ちのプロセスの一部として見えてきます。

読後感

食べたいという気持ちの奥には、お腹の空き具合だけでなく、憧れやわくわく、その日の心の動きが静かに息づいているのかもしれません。それを「良い・悪い」で切り分ける前に、まずは知ろうとするまなざしが、子どもとの対話をひらいてくれる気がします。

今日、お子さんは何に「いいな」と心を動かしていましたか。