すくすくベリー研究所
発達心理学

思春期の心はどう成長する?感情をコントロールする「引き出し」が増えるプロセス

📄 Developmental stability and change in emotion regulation strategies and strategy repertoires across adolescence.

✍️ Galarneau, E., Lischetzke, T., Li, X., De France, K., Lougheed, J. P., Hollenstein, T.

📅 論文公開: 2026年1月

思春期 感情コントロール 自立 縦断的研究

3つのポイント

  1. 1

    思春期の前半は「気を紛らわせる」「感情を押し殺す」といった方法で心を落ち着かせようとする傾向が見られました。

  2. 2

    思春期の後半になると、「物事の捉え方を変える」「リラックスする」など、より高度な方法を使えるようになります。

  3. 3

    大人に近づくにつれて、一つのやり方に頼るのではなく、複数の方法を状況に合わせて使い分ける「心の引き出し」が豊かになっていくことがわかりました。

論文プロフィール

  • 著者:Galarneau, E. ほか
  • 発表年:2026年
  • 掲載誌:Journal of Research on Adolescence
  • 調査対象:11〜15歳から調査を開始した計388名の子どもたち
  • 調査内容:イライラや落ち込みといった感情を自分でコントロールし、整える方法(感情調整戦略)が、思春期の数年間でどのように変化・発達していくかを長期間にわたって追跡調査しました。

エディターズ・ノート

思春期のお子さんが急に不機嫌になったり、一人で部屋にこもったりして、どう接していいか戸惑うことはありませんか?最新の縦断的研究から見えてきた、子どもたちが自分なりに「感情を乗りこなす術」を必死に身につけようとしている尊いプロセスをご紹介します。


実験デザイン

本研究は、同じ子どもたちを長期間追跡する 縦断的研究 という手法で行われました。対象者は2つのグループに分けられています。

  • 年少グループ(201名):11〜12歳からスタートし、5年間にわたり年1回の調査を実施。
  • 年長グループ(187名):13〜15歳からスタートし、3年間にわたり年2回の調査を実施。

調査の結果、思春期の前半と後半で、よく使われる「心の整え方」のバリエーションが変わっていくことがわかりました。年少グループでは「気を紛らわせる(気晴らし)」「感情を押し殺す(抑圧)」といった手法が増加したのに対し、年長グループでは「『これも良い経験だ』と捉え方を変える(再評価)」「深呼吸などでリラックスする」といった手法がより多く使われるようになっていきました。

年齢に伴う感情コントロール方法の移り変わり(概念図) 0 17 33 50 66 83 使用頻度のイメージ 年齢(歳) 気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加): 35 (年齢(歳)=11) 気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加): 55 (年齢(歳)=13) 気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加): 65 (年齢(歳)=15) 気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加): 60 (年齢(歳)=17) 捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加): 20 (年齢(歳)=11) 捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加): 30 (年齢(歳)=13) 捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加): 55 (年齢(歳)=15) 捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加): 75 (年齢(歳)=17) 気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加) 捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加)
年齢に伴う感情コントロール方法の移り変わり(概念図)
系列 年齢(歳) 使用頻度のイメージ
気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加) 11 35
気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加) 13 55
気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加) 15 65
気を紛らわせる・感情を抑える(思春期前半に増加) 17 60
捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加) 11 20
捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加) 13 30
捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加) 15 55
捉え方を変える・リラックス(思春期後半に増加) 17 75
年齢に伴う感情コントロール方法の移り変わり(概念図)

また、成長するにつれて、状況に応じて使える感情コントロールの引き出し(レパートリー)が豊かになり、複数の戦略を使いこなせる「多様性が高い状態」へと移行していく傾向も確認されました。


古典知見との接続

思春期は、心理学者エリクソン(Erikson)が提唱した「アイデンティティ(自分らしさ)の確立」という大きな発達課題に向き合う時期です。この時期は同時に、親の庇護から離れて精神的に自立していくプロセス( 個体化 )でもあります。

親に頼らず、自分自身で湧き上がる感情を処理しようとする中で、衝動を抑えたり思考を柔軟に切り替えたりして自分の行動や感情をコントロールする力( 実行機能 )が、試行錯誤とともに少しずつ磨かれていくのです。


すくすくベリーとしての解釈

すくすくベリーは、0歳から18歳までのすべての成長フェーズに寄り添う教育プラットフォームを目指しています。この論文の知見は、私たちがプロダクトを設計する上で非常に大切な視点を与えてくれます。

アプリを通じてお子さんの学習記録や遊びのログを解析する際、私たちは「計画通りにいかなかった時の反応」や「うまくいかずイライラしている様子」も貴重なデータとして捉えようとしています。AIが「今は気を紛らわせることで感情を処理しようとしている時期だな」「少しずつ、ポジティブに捉え直す力が育ってきたな」と発達のシグナルを読み取り、保護者の方に「今は新しい心の引き出しを作っている最中です」といった温かいフィードバックをお届けする仕組みの背景には、こうした科学的な裏付けがあります。

ご家庭で明日からできることとして、お子さんが感情を持て余しているように見えたとき、「うまくできないのね」と捉えるのではなく、「今は自分に合った心の整え方を、試行錯誤して探している途中なんだな」と見守ってみてください。時にはゲームで気を紛らわせることも、ふて寝をすることも、彼らなりの立派な「感情調整戦略」の一つなのです。


読後感

あなたのお子さんが悔しい思いや悲しい気持ちになったとき、最近はどんな方法で自分自身を落ち着かせようとしていますか?その小さな変化に目を向けてみると、成長の頼もしい足音に気づけるかもしれません。