子育て論文研究室
発達心理学

生成AIとともに大人になる — 思春期の育ちが「肩代わり」されるとき、何が起きるのか

📄 Coming of Age With Generative Artificial Intelligence: The High Stakes of Automating Adolescent Development.

✍️ Maheux, AJ, Maes, C

📅 論文公開: 2026年1月

生成AI 思春期 アイデンティティ 感情の調整 心と関係

3つのポイント

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    思春期は、仲間とのつながり・気持ちの立て直し・自分で決めること・自分らしさの形づくりという課題に取り組む、影響が長く残りやすい時期だと考えられています。

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    この論文は、その時期に生成AIのチャットボットを日常的に使うことが、育ちにどう関わりうるのかを、複数の分野の研究を突き合わせて整理した論考です。

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    著者は良い面と気がかりな面の両方を挙げたうえで、判断できるだけの証拠はまだ足りず、追跡型の研究が必要だと述べています。

論文プロフィール

  • 著者: Maheux, AJ / Maes, C
  • 発表年 / 掲載誌: 2026年 / Perspectives on Psychological Science(DOI: 10.1177/17456916261460771)
  • 調査対象: 思春期の子どもと若者(明確な年齢範囲は要旨では示されていません)
  • 調査内容: 生成AIのチャットボットの利用が、思春期の心理社会的な発達課題にどう関わりうるのかを、複数分野の研究を突き合わせて整理した論考

エディターズ・ノート

新しい道具が現れたとき、いちばん影響を受けるのは、その道具がなかった頃を知らない世代です。今の10代がまさにその位置にいます。

この論文は、賛成でも反対でもない立場から、思春期という時期の特性そのものに立ち返って考えようとしています。まだ小さなお子さんを育てているご家族にとっても、これから来る時期の見取り図として読める内容だと考えました。

実験デザイン

この論文は、新しくデータを取った実験ではなく、心理学・発達科学・関連分野の研究を突き合わせて整理した論考です。参加人数や効果の大きさといった数値は報告されていません。

出発点にあるのは、思春期が感受性の高い時期だという見方です。著者はこの時期の中心的な課題として、次の4つを挙げています。

  • 仲間の輪のなかに居場所を見つけること(社会的な所属)
  • 高ぶった気持ちを自分で立て直せるようになること(感情の調整)
  • 大人の指示ではなく自分の判断で動けるようになること(自律性)
  • 「自分はどういう人間か」を形づくること(アイデンティティの形成)

これらがどう達成されるかは、その後の人生に長く影響すると考えられています。

そのうえで著者は、生成AIには両方の面があると整理します。人を相手にするより失敗の代償が小さい場面で会話を練習できること、気持ちの立て直しに 足場かけ(スキャフォールディング) のような支えを与えうること、自分らしさを探る対話の相手になりうること。ここまでは、条件によっては役立ちうる面として挙げられています。

一方で著者が強く警戒しているのは、本来その時期に経験されるべき出来事が、AIによって置き換えられてしまう可能性です。具体的には、人との接触が減って孤立が深まること、つらさに耐える力が育ちにくくなること、人間関係への期待がゆがむこと、自分らしさや目的意識の形づくりが妨げられること、そして偏った情報・誤った情報・性的に不適切な内容に触れることが挙げられています。

🔍 「肩代わり」がなぜ問題になりうるのか

この論文の懸念は「AIの答えが間違っているかもしれない」という話にとどまりません。むしろ、AIがうまく答えてしまうことのほうが論点になっています。

たとえば、友だちとの気まずさをどう切り出すか悩む時間。断られるかもしれないと思いながら誘う瞬間。答えが出ないまま考え続ける数日間。こうした落ち着かない時間そのものが、感情を扱う力や関係を結ぶ力を育てている、という見方です。

そこに、いつでも穏やかに応じてくれる相手がいると、悩む時間が短くなります。短くなること自体は楽ですが、練習の機会も同時に減っているのではないか、というのが著者の問いです。

ただしこれは仮説であり、実際にそうなるかを確かめた研究はまだ十分ではありません。

🔍 この論考から言えないこと

この論文は、証拠を積み上げて結論を出したものではなく、これから何を調べるべきかを示した論考です。読むときには次の点に注意したいところです。

  • 良い・悪いの判定は出ていません。著者自身が、使い方や場面によって影響は変わりうると述べています。
  • 数値はありません。どのくらいの利用で、どのくらいの影響があるのかは示されていません。
  • 今の10代の話です。より年少の子どもや、成人に当てはめられる知見ではありません。
  • 地域や文化の違いは扱いきれていません。日本の家庭や学校の状況にそのまま重なるとは限りません。

著者は、特定の使い方に絞った研究、発達の各領域をまとめて見る研究、傷つきやすさの度合いが違う集団を分けて見る研究、そして当事者である若者自身の見方を取り込む研究が必要だと呼びかけています。とくに 縦断研究(同じ人を長く追う研究) が足りないことを、繰り返し指摘しています。

古典知見との接続

思春期を「自分が何者かを決めていく時期」として描いたのは、エリクソンでした。彼はこの時期の課題を、アイデンティティの確立と、それが定まらない状態との間の揺れとして捉えました。大切なのは、その揺れが失敗ではなく過程として扱われている点です。迷い、試し、いったん名乗ってみて、違うと感じて引き返す。その往復のなかで輪郭ができていく、という見方です。

ヴィゴツキーの考え方も、この論文の懸念とつながります。彼は、子どもが一人でできることと、支えがあればできることの間に育ちの余地があると述べました。支えは、やがて外されることを前提としています。足場は外れる予定があってこそ足場として働く、という点が肝心です。いつでも同じ強さで支えが続くなら、それは足場ではなく壁になりかねません。

生成AIは、疲れず、機嫌が変わらず、何度でも同じ調子で応じます。人間の支え手にはない性質です。それは助けにもなりますが、支えが自然に薄れていく過程が起きにくいことも意味します。著者が発達科学の枠組みで考えるよう呼びかけているのは、こうした違いを、道具の性能ではなく育ちの側から見直すためだと読めます。

🔍 古典の言葉を、今の場面に置き直すと

エリクソンやヴィゴツキーが書いた時代に、生成AIはありません。それでも、次のような問いの形は使えます。

  • その支えは、いつか要らなくなる方向を向いているか。使うほど自分でできることが増えているなら、足場として働いています。
  • 試して外す経験が残っているか。うまくいかない相手、思い通りにならない相手と関わる時間が、生活のなかにどれくらいあるか。
  • 自分で決めた感覚があるか。答えをもらったのか、選んだのか。本人にとってその違いは、あとから効いてきます。

これらは点数をつけるための問いではなく、様子を見るための問いです。

読後感

支えるということは、いつか支えを外すことまで含んだ言葉なのかもしれません。

すぐに答えてくれる相手がいることは、たしかに心強いことです。それでも、答えが出ないまま過ごした夕方や、言い出せずに持ち帰った気まずさが、あとになって自分の一部になっていたという経験を、多くの方が持っているのではないでしょうか。

お子さんが「どうしたらいい?」と聞いてきたとき、みなさんはどのくらいの時間、一緒に黙っていられそうでしょうか。