子育て論文研究室
発達心理学

十代の心の不調はなぜ増えているのか — 世界の動向と、睡眠を軸にした3段階の支え方

📄 Young minds in distress: Exploring the global rise in youth mental health diagnoses.

✍️ Chiang, HL, Chien, YL, Gau, SS

📅 論文公開: 2026年1月

思春期 心の健康 睡眠 デジタル環境 心と関係

3つのポイント

  1. 1

    高所得国を中心に、十代のうつ・自傷・自殺が増えており、診断のつけ方が変わっただけでは説明しきれないと、この総説はまとめています。

  2. 2

    増加に関わる要因として、デジタル機器の長時間利用・ネット上のいじめ・学業の重圧が挙がり、なかでも睡眠の乱れが多くの不調に共通する要因として重視されています。

  3. 3

    著者らは、すべての子への予防、リスクの高い子への早めの支え、治療が必要な子への支援という3段階の枠組みを提案しており、個々の効果の大きさを示す研究ではありません。

論文プロフィール

  • 著者: Chiang, HL / Chien, YL / Gau, SS
  • 発表年 / 掲載誌: 2026年 / Molecular Psychiatry(DOI: 10.1038/s41380-026-03884-x)
  • 調査対象: 世界各国の思春期・若者の心の健康に関する疫学研究と介入研究
  • 調査内容: 十代の心の不調の増加が本当の増加なのか、診断が増えただけなのかを見分け、背景となる要因と、根拠のある支え方を整理しました

エディターズ・ノート

「最近の子は心が弱い」「診断が増えただけ」という声がある一方で、身近な十代の不調を心配するご家族も少なくありません。この総説は、増加の実態と背景を世界の研究から整理し、家庭や学校で取り組める支え方まで示しているため、お届けします。

実験デザイン

この論文は新しい実験や調査を行ったものではなく、これまでに世界で発表された研究をまとめて整理した総説(レビュー)です。そのため、1つの研究のような参加者数や効果の大きさは示されていません。

著者らはまず、思春期の脳の発達の特徴を整理しています。感情をつかさどる部分は早く成熟し、衝動を抑えたり先を見通したりする前頭部は遅れて成熟します。この「ずれ」が、十代に心の不調が始まりやすい背景の1つだと説明しています。

そのうえで、高所得国では十代のうつ・自傷・自殺が増えていると報告しています。受診や診断のあり方が変わっただけでなく、重症度を示す客観的な指標にも変化が見られることから、診断の増加だけでは説明できない実際の悪化が起きているとまとめています。

増加に関わる要因として挙げられているのは次のとおりです。

  • デジタル機器の長時間利用とネット上のいじめ
  • 睡眠の乱れ(多くの不調に共通する要因として特に重視)
  • 学業の重圧
  • 新型コロナウイルス感染症の流行(以前からの悪化を早め、摂食障害や社会性・情緒の発達に目立った影響)

これらを踏まえ、著者らは3段階の支え方を提案しています。

段階対象主な内容
すべての子への予防子ども全体デジタル環境の整備、社会性と感情を育てる学び、定期的な運動の機会
早めの支えリスクの高い子睡眠の様子を見守る、競争の激しい環境での学業の重圧を和らげる
治療が必要な子への支援不調が出ている子根拠のある心理療法、入院後に学校へ戻る段取りを整える
🔍 総説という研究のかたちと、その限界

総説は、多くの研究を見渡して全体像を示すのに役立つ一方、次の点に注意が必要です。

  • どの研究を取り上げたかは著者の判断によるため、 メタ分析 のように数値を統合して効果の大きさを示すものではありません。
  • 増加の傾向は主に高所得国の研究にもとづいており、すべての国や地域にそのまま当てはまるとは限りません。
  • デジタル機器や睡眠と不調との関係には、どちらが原因かを決めきれない研究も含まれます。
🔍 「診断が増えただけ」と「本当に増えた」をどう見分けるのか

診断の数は、病気への理解が広がったり、相談しやすくなったりするだけでも増えます。

そこで著者らは、診断件数だけでなく、自殺による死亡や自傷による受診など、診断基準の変化に左右されにくい指標にも注目しています。こうした指標でも悪化が見られることが、「実際に増えている」と判断する根拠になっています。

古典知見との接続

エリクソンは、思春期を「自分とは何者か」を模索する時期と位置づけました。友だちとの比較やネット上の評価にさらされやすい今の環境は、この模索をより揺らぎやすいものにしているのかもしれません。

また、著者らが守りの要因として挙げる「友だちとのつながり」や「感情を整える力」は、ボウルビィの 愛着(アタッチメント) の考え方とも重なります。困ったときに頼れる人がいるという安心感は、幼い時期だけでなく十代にも心の支えになります。安心して眠れる毎日や、話を聞いてくれる人の存在が、揺れやすい時期の足場になるという見方です。

前頭部が遅れて成熟するという説明は、 実行機能 (夜更かししたい気持ちを抑えて寝る、気分が落ち込んでも切り替える、といった力)が十代ではまだ育ちの途中であることを示しています。周りの大人が環境を整える意味は、ここにあります。

🔍 家庭で気づきやすい変化の例

論文が重視する睡眠や日々のリズムは、家庭で目に入りやすいものです。

  • 寝る時間が少しずつ遅くなっている
  • 朝なかなか起きられない日が続く
  • 好きだった運動や外出を避けるようになった
  • 食事の量や食べ方が変わった

こうした変化は成長の一部であることも多く、それだけで不調と決めつけるものではありません。気になる状態が続くときは、学校や専門の相談窓口に話してみることも選択肢の1つです。

読後感

最近、ご家族のみなさんは、お子さんとゆっくり話したり、一緒に眠る前の時間を過ごしたりできていますか? 今夜、お子さんがどんな顔で「おやすみ」と言ったか、少し思い出してみませんか。