子育て論文研究室
発達心理学

衝動を止める力より、気持ちを立て直す力 — 幼児期の自己制御とその後の心

📄 Examining early inhibitory control and emotion regulation as predictors of childhood internalizing and externalizing problems: A longitudinal study.

✍️ Jónsdóttir, LK, Frick, MA, Frick, A, Heeman, EJ, Brocki, KC

📅 論文公開: 2026年1月

この研究がおしえてくれること 元論文を見る

気持ちを立て直す力が、その後の心の育ちとゆるやかに結びつく

  1. 1 6歳ごろの感情の立て直し力が、9〜10歳の心の状態と関わっていました
  2. 2 一方、4歳の抑制する力からは、はっきりした予測は見られませんでした
  3. 3 参加は94名と少なめで、「必ずこうなる」と言い切れる結果ではありません
研究で見えた効果の大きさ
小さい 中くらい 大きい
研究のかたち 縦断研究
規模 94名の子ども
確からしさ まずまず

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Jónsdóttir, LK. ほか(2026年)/JCPP Advances
  • 調査対象: 定型発達の子ども94名。自己制御の育ちを追った縦断プロジェクト「EFFECT研究」の一部
  • 調査内容: 4歳のときに「衝動をぐっと止める力(抑制制御)」を、6歳のときに「気持ちを立て直す力(感情調整)」を測り、9〜10歳での心の状態(気持ちが内にこもりやすい傾向/外に出やすい傾向)との結びつきを調べました

エディターズ・ノート

「わが子の自己制御を育てたい」という願いは、多くのご家族に共通するものだと思います。ただ、自己制御と一口に言っても、その中身はひとつではありません。この研究は「衝動を止める力」と「気持ちを立て直す力」を分けて追いかけ、どちらがその後の心の育ちと結びつくのかを丁寧に見つめた一本として、今の子育てに寄り添うと考えお届けします。

実験デザイン

この研究では、同じ子どもたちを幼児期から児童期まで追いかける 縦断研究 の手法がとられました。4歳のときには「昼/夜ストループ課題」で抑制制御を、6歳のときには保護者への質問紙で感情調整を測り、9〜10歳での心の状態を保護者報告でとらえています。集めたデータは、相関分析とパス解析という方法で結びつきを調べました。

結果は、少し意外なものでした。4歳時点の抑制制御からは、9〜10歳の心の状態も、6歳の感情調整も、はっきりとは予測できませんでした。一方で、6歳ごろの気持ちを立て直す力が、その後の心の状態と結びついていたと報告されています。怒りや不安といった特定の感情の調整については、統計的にはっきりとは言えないものの、さらなる研究に値する手がかりも見えたとされています。

🔍 「衝動を止める力」と「気持ちを立て直す力」の違い

どちらも自己制御に関わる力ですが、少し役割が異なります。

  • 抑制制御: 赤信号で思わず走り出したくなる衝動を「ストップ!」と止める、とっさのブレーキのような力です。
  • 感情調整: わき起こった怒り・不安・悲しみといった気持ちと折り合いをつけ、少しずつ立て直していく力です。

この研究では、後者の「立て直す力」のほうが、その後の心の状態とゆるやかに結びついていました。

🔍 この研究の読み方(限界)
  • 参加したのは94名で、追跡のなかで途中参加できなくなった子もいたため、著者自身が「控えめなサンプル数」と述べています。効果が小さく見えた背景に、この規模の限界がある可能性も指摘されています。
  • 感情調整と心の状態はどちらも保護者報告で測られており、同じ人の見立てが両方に影響した可能性もあります。
  • 「立て直す力が心の育ちを支える」という因果までは、この研究だけでは決められません。あくまで結びつきが見えた段階です。

古典知見との接続

気持ちを立て直す力は、ひとりで内側から湧いてくるというより、まわりの人との日々のやりとりのなかで少しずつ自分のものになっていく——ヴィゴツキーは、こうした 実行機能 や自己制御の芽生えを、人との関わりが内面へと取り込まれていく過程として描きました。はじめは大人が「大丈夫だよ」と一緒に気持ちを整えてくれる。その経験が、やがて子ども自身の立て直す力になっていく、という見方です。

今回の研究で、とっさに止める力よりも気持ちを立て直す力のほうが後の心と結びついていたことは、この古典的な見方とも静かに響き合います。気持ちは、誰かと一緒に整える経験を土台に育っていく——そう考えると、日々のやりとりのひとつひとつが、静かに意味を持って見えてきます。

読後感

子どもの気持ちがあふれてしまったとき、すぐに収めることよりも、その気持ちを一緒に見つめる時間のほうが、実は遠くまで届くのかもしれません。

今日、お子さんはどんな気持ちと折り合いをつけようとしていましたか。そして、あなたはそのそばで、どんな言葉をかけたくなりましたか。