つけっぱなしのテレビと、待つ力。乳幼児期の画面接触と抑制制御を追った縦断研究
📄 Screen Media Exposure and Inhibitory Control: A Longitudinal Study From Infancy to Toddlerhood
✍️ Uzundağ, BA, Güven, İN, Sıvış, Ö, Başpınar, G
📅 論文公開: 2026年
3つのポイント
- 1
生後9〜16か月から約1歳半後の2歳半ごろまでを追い、画面への接触と「がまんする力」の関係を調べました。
- 2
つけっぱなしのテレビへの接触が多い子ほど、2歳半時点での「がまんする力」の課題成績が低い傾向がみられました。
- 3
ただし参加者は75組と少なく、関連が見られても「テレビが原因」と言い切れるものではない点に注意が必要です。
論文プロフィール
- 著者: Uzundağ, BA / Güven, İN / Sıvış, Ö / Başpınar, G
- 発表年・掲載誌: 2026年・Infancy 誌
- 調査対象: 75組の乳児とその母親。1回目の調査時は生後9〜16か月(平均11.8か月)、2回目は約19か月後の平均31.1か月(およそ2歳半)。
- 調査内容: 画面(スクリーン)への接触時間と、その「中身」(とくに、つけっぱなしの「ながら見テレビ」と、子どもの気持ちを落ち着かせるための保護者によるメディア利用)が、子どもの「がまんする力」とどう関わるかを、2つの時点を追って調べた縦断研究です。
エディターズ・ノート
子育てのなかで、テレビやスマホの画面との付き合い方に迷うご家庭は少なくありません。この研究は「時間の長さ」だけでなく「どんな状況で画面がついているか」という文脈に目を向けた点が新しく、私たちが見落としがちな日常の風景に光を当ててくれます。
実験デザイン
この研究は、同じ75組の親子を2つの時点で追いかけた 縦断研究 縦断研究 同一の参加者を長期間にわたって追跡調査する研究デザイン。発達的変化の因果関係を検討できる。 です。1回目(平均11.8か月)と、その約19か月後の2回目(平均31.1か月)に分けてデータが集められました。
2回目の時点で、子どもたちは「がまんする力」を測る2つの課題に取り組みました。
- 禁止課題(Prohibition Task): 目の前の魅力的なものに「すぐ手を出さずに待てるか」を見る課題です。
- 逆カテゴリー化課題(Reverse Categorization): 「いつもと逆のルール」に従って物を仕分ける、頭の切り替えを要する課題です。
加えて、保護者には「ふだんの画面接触の時間」「つけっぱなしのテレビ(背景テレビ)の様子」「気持ちを落ち着かせるためにメディアを使う頻度」をたずね、子どもの「がまんする力」についての親の評価も集めました。
主な結果は次のとおりです。
- 2回目時点でつけっぱなしのテレビへの接触が多い子ほど、2つの行動課題のどちらでも成績が低い傾向がありました。
- 2回目時点での画面接触時間が長いことは、禁止課題で「待てる時間が短い」ことと関連していました(年齢・以前の画面時間・調査間隔を統計的に考慮したうえで)。
- 一方、親による「がまんする力」の評価は、画面の使い方と関連していませんでした。
🔍 この研究の限界と、読み解くうえでの注意点
結果を受け取るうえで、いくつかの留保が必要です。
- 参加者が75組と少ないため、結果が他の家庭にそのまま当てはまるとは限りません。
- これは観察にもとづく研究で、実験的に条件を割り当てた ランダム化比較試験 ランダム化比較試験 参加者を無作為に介入群と対照群に割り付けて効果を比較する実験デザイン。エビデンスレベルが最も高い研究手法の一つ。 ではありません。そのため「テレビが原因で力が育ちにくくなった」と因果を断定することはできません。たとえば、もともと落ち着きにくい子のそばでテレビがつきやすい、といった逆向きの可能性も残ります。
- 画面接触の情報は保護者の自己申告にもとづくため、実際の時間との間にずれがある可能性があります。
🔍 「数値の折れ線」ではなく概念図で示す理由
論文は統計的な関連を報告していますが、ここで紹介できる「正確な数値の推移」のかたちでは公開されていません。そのため下の図は、研究が示した関係の向き(イメージ)を表す概念図であり、実際の測定値ではありません。
| 系列 | 測定時点(1回目→2回目) | がまんする力の課題成績(イメージ) |
|---|---|---|
| つけっぱなしテレビが少ない環境(イメージ) | 1 | 40 |
| つけっぱなしテレビが少ない環境(イメージ) | 2 | 70 |
| つけっぱなしテレビが多い環境(イメージ) | 1 | 40 |
| つけっぱなしテレビが多い環境(イメージ) | 2 | 52 |
古典知見との接続
ここで測られている「がまんする力」は、心理学で 実行機能 実行機能 目標志向的な行動を制御する認知プロセスの総称。抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性を含む。 と呼ばれる、自分の行動や注意を目的に向けてコントロールする力の一部です。なかでも「思わず出そうになる反応をひと呼吸おいて止める」働きを、抑制制御(よくがまんする力)と呼びます。
急に「ほしい!」と手が伸びそうになるのをこらえる、楽しいおしゃべりの最中でも先生の合図にパッと注意を向ける——こうした日常の小さな場面の積み重ねが、この力の現れです。
🔍 「がまんする力」の2つの顔
抑制制御は、大きく2つの働きに分けて考えられることがあります。
- 反応の抑制: 目の前のおやつに思わず伸びる手を「まだ待とう」と止める力です。この研究の禁止課題はこれに近いものを見ています。
- 干渉への抵抗・切り替え: 「いつものやり方」に引っ張られず、新しいルールに頭を切り替える力です。逆カテゴリー化課題はこちらに関わります。
どちらも、生まれてすぐに完成しているものではなく、乳幼児期からゆっくり育っていく力だと考えられています。
研究者たちは、乳幼児期がとくに敏感な時期かもしれないと指摘しています。この時期の子どもは、まわりの人との関わり(社会的な学び)を通して多くを吸収する一方で、画面の中の情報を処理する力はまだ限られているためです。だからこそ、つけっぱなしのテレビのように「直接の関わりを少しずつ削ってしまうかもしれない環境」が注目されています。
読後感
「画面の時間」という数字に気を取られていると、つい見落としてしまうものがあります。それは、その時間のまわりにある風景です。誰も見ていないテレビの音、待ちきれずに伸びる手、ふと「待てた」瞬間の小さな表情。
今日、お子さんがそばにいたとき、お部屋にはどんな音が流れていましたか。そして、その子が「もうちょっと待ってみよう」とした瞬間に、あなたは気づけたでしょうか。