すくすくベリー研究所
発達心理学

たくさん走る子は、頭の切り替えも上手? 運動が「実行機能」を伸ばす科学的根拠

📄 Physical fitness and executive functions in early childhood: A systematic review of recent evidence.

✍️ Lakicevic, N., Manojlovic, M., Chichinina, E., Chursina, A., Tarasova, K., Thomas, E., Zhong, Y., Bianco, A., Drid, P.

📅 論文公開: 2026年1月

実行機能 運動能力 幼児期 ワーキングメモリ 抑制制御

3つのポイント

  1. 1

    持久走などの有酸素運動をよくする子は、集中力や思考の切り替えといった「実行機能」が高い傾向にありました。

  2. 2

    一方で、筋力や体の柔軟性と実行機能の間には、はっきりとした関連は見られませんでした。

  3. 3

    鬼ごっこのような俊敏さや、バランスをとる動きは、記憶力や衝動を抑える力と部分的に関連していました。

論文プロフィール

  • 著者名: Lakicevic, N. ら
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Complementary Therapies in Medicine
  • 調査対象: 3〜6歳の子どもを対象とした20件の研究(合計3,117名分)のデータを分析。
  • 調査内容: 幼児期の身体的な能力(体力、俊敏さ、バランスなど)と、思考や行動をコントロールする力( 実行機能 )との間にどのような関係があるかを体系的に調査しました。

エディターズ・ノート

「運動すると頭が良くなる」とよく言われますが、具体的にどんな運動が、脳のどんな力につながるのでしょうか?

この素朴な疑問に、最新の科学が光を当ててくれています。「体力」と一括りにせず、様々な要素に分解して、脳の働きとの関係を丁寧に分析したこの論文を、子育てのヒントとしてお届けします。

実験デザイン

この研究は、特定の実験を新たに行ったものではなく、過去5年間で発表された信頼性の高い20件の研究結果を集めて、それらを統合・分析する システマティックレビュー という手法を用いています。

これにより、一つの研究だけでは見えにくい、より大きな傾向を明らかにすることができます。

分析の結果、様々な「身体能力」と「実行機能」の関係について、関連の強さに違いがあることが分かりました。

各種の身体能力と実行機能の関連性の強さ(概念図) 0 18 36 54 72 90 実行機能との関連度 90 有酸素運動能力 60 俊敏さ・バラン 20 筋力・柔軟性
各種の身体能力と実行機能の関連性の強さ(概念図)
項目 実行機能との関連度
有酸素運動能力 90
俊敏さ・バランス 60
筋力・柔軟性 20
各種の身体能力と実行機能の関連性の強さ(概念図)
  • 関連が強い: 心肺機能の高さ(有酸素運動能力)は、実行機能の高さと一貫して関連していました。
  • 部分的に関連: 俊敏さやバランス能力は、実行機能の一部(記憶力や我慢する力)とは関連が見られましたが、一貫しない結果もありました。
  • 関連が弱い: 筋力や体の柔軟性は、実行機能との間に明確な関係は見出されませんでした。
🔍 「実行機能」って、具体的にどんな力?

実行機能は、目標を達成するために自分の思考や行動を管理・調整する、脳の司令塔のような働きです。主に3つの要素があると言われています。

  • ワーキングメモリ(作動記憶): 「ママに頼まれたおつかいを覚えておく」「遊びのルールを覚えて従う」など、情報を一時的に記憶し、それを利用する力です。
  • 抑制制御: 「おもちゃを今すぐ欲しいけど我慢する」「話したいことがあっても、相手の話が終わるまで待つ」など、衝動的な行動や感情を抑える力です。
  • 認知の柔軟性: 「ブロック遊びからお絵描きへ、スッと頭を切り替える」「いつもと違う公園でも、新しい遊び方を見つける」など、状況に合わせて考え方や行動を柔軟に変える力です。

これらの力は、幼児期の遊びや学び、友達との関わりの中で育まれ、将来の学業成績や社会生活の基盤となります。

🔍 研究の限界と注意点

このレビュー論文は非常に有益な知見を提供してくれますが、いくつか注意すべき点もあります。

まず、示されたのは「相関関係」であり、「因果関係」ではありません。つまり、「有酸素運動をすると実行機能が伸びる」とまでは断定できず、「有酸素運動能力が高い子は、実行機能も高い傾向がある」という関係性を示したものです。

また、分析対象となった20件の研究は、それぞれ体力や実行機能の測定方法が少しずつ異なっています。そのため、結果の解釈には慎重さが求められます。

とはいえ、これだけ多くの研究で一貫した傾向が見られたことは、幼児期の運動の重要性を改めて示唆していると言えるでしょう。

古典知見との接続

今回の研究結果は、「身体を動かすこと」が単なる体力づくりに留まらず、認知的な発達にも深く関わっていることを示しています。これは、発達心理学の巨人たちの考えとも響き合います。

例えば、 ヴィゴツキー は、子どもが「一人ではできないけれど、助けがあればできる」領域で最もよく学ぶと考えました。

鬼ごっこのような少し複雑なルールのある遊びは、まさにこの領域での学びと言えます。大人が遊び相手になったり、少し難しいルールを提案したりする 「足場かけ」 を通じて、子どもは体を動かしながら、衝動をコントロールし(抑制制御)、状況を記憶し(ワーキングメモリ)、次の動きを予測する(認知の柔軟性)といった実行機能をフル活用するのです。

身体を使った具体的な活動を通して、抽象的な思考能力が育まれていく。この論文は、そうした古典的な知見を現代のデータで裏付けていると解釈することもできます。


すくすくベリーとしての解釈

私たちはこの研究結果を、子どもたちの「遊び」が持つ豊かな可能性を再発見するための重要なヒントだと捉えています。

プロダクトの思想への反映

すくすくベリーが目指すのは、単に「運動した時間」を記録するだけでなく、その「質」を捉え、次につながるフィードバックを届けることです。

今回の研究は、「どのような種類の運動が、どの認知機能と関連が深いか」という解像度で子どもの活動ログを分析する重要性を示唆してくれました。

例えば、「公園で30分間、走り回って遊んだ」というログは、単なる活動記録ではありません。私たちにとっては、お子さまの有酸素運動能力、ひいては 実行機能 が育まれている貴重なシグナルです。

将来的には、こうしたログから「今、集中力や思考の柔軟性が伸びる土台ができていますね。次はルールを守りながら体を動かす”だるまさんがころんだ”で、衝動をコントロールする力も養ってみませんか?」といった、一人ひとりの発達段階に合わせた、より具体的な遊びの提案に繋げていきたいと考えています。

ご家庭で今日からできること

特別な運動教室に通わせる必要はありません。大切なのは、親子で楽しみながら、少し息が弾むくらいの活動を日常に取り入れることです。 おすすめは「5分だけ鬼ごっこ」です。

帰り道や公園にいる時間の最後に、「5分だけ本気で鬼ごっこしよう!」と誘ってみてください。短い時間でも、追いかけたり、逃げたりする中で心拍数が上がり、楽しみながら有酸素運動ができます。

この研究は、幼児期の身体活動が、遠い将来の学力や社会性だけでなく、今まさに目の前にある「気持ちの切り替え」や「我慢する力」にも繋がっていることを教えてくれます。

読後感

お子さんが夢中で走り回っている時、その姿はどんな風に見えますか?

ただ元気に遊んでいるだけでなく、未来の自分を形作る大切な「心のエンジン」を、その小さな体で一生懸命育てているのかもしれませんね。