子育て論文研究室
発達心理学

「考える力」が算数につながるまでには、寄り道がある

📄 Executive function and Chinese preschoolers' early mathematical skills: The indirect role of patterning and spatial skills.

✍️ Xie, H, Yaacob, NRN, Ouyang, H

📅 論文公開: 2026年1月

実行機能 算数 空間認識 就学前

3つのポイント

  1. 1

    中国の未就学児281人を対象に、考える力と算数の力のつながりが調べられました。

  2. 2

    考える力は算数へ直接届くだけでなく、規則を見つける力や空間をとらえる力を経由していました。

  3. 3

    机に向かう学習より前に、並べる・重ねる・くり返す遊びが土台になっている可能性があります。

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Xie, H., Yaacob, N.R.N., Ouyang, H.(2026年)/Acta Psychologica
  • 調査対象: 中国の未就学児 281 人
  • 調査内容: 考える力(実行機能)と、その後の算数の力との関係に、「規則を見つける力(パターニング)」と「空間をとらえる力」がどう介在するかを検討

エディターズ・ノート

「算数が得意になるには早くから数字に触れさせたほうがいいのでしょうか」というご相談を、私たちはよく耳にします。この研究は、その問いに少し違う角度から答えるものです。数の学習の手前にある、もっと日常的な力の重なりを見せてくれます。

実験デザイン

研究チームは、中国の未就学児 281 人を対象にした 縦断研究 を行いました。まず子どもたちの 実行機能 ——やりたい衝動をちょっと待つ力、覚えておきながら考える力、頭を切り替える力——を測定し、その後の算数の力との関係を調べています。

ポイントは、両者を直接つなぐ線だけを見なかったことです。あいだに「規則を見つける力」と「空間をとらえる力」を置いて、どの経路を通って影響が届いているのかを分析しました。その結果、考える力は寄り道をしながら算数の力に届いていることが示されました。

なお公開されている抄録では具体的な数値までは確認できないため、この記事では関係の「かたち」に絞ってお伝えします。

🔍 「規則を見つける力」ってどんな力?

パターニングとは、並びのきまりに気づいて続きを言い当てる力のことです。

  • 色や形の並び: 赤・青・赤・青…と並んだビーズの、次の色が分かる。
  • 音やリズム: 手拍子のパターンを聞き取って真似できる。
  • 日常の順番: お風呂のあとはパジャマ、という流れを予測できる。

数字が出てこなくても、これは「きまりを見つけて先を読む」という算数の骨格そのものです。

🔍 この研究で気をつけたいこと

対象は中国の未就学児で、文化や就学前教育の在り方が異なる地域にそのまま当てはまるとは限りません。

また、経路が示されたからといって「規則遊びをさせれば算数ができるようになる」という因果関係が証明されたわけではありません。観察された関係のつながり方が示された、という段階の知見です。

古典知見との接続

ピアジェは、子どもが数を理解する前に「分類する」「順序づける」という操作を身につけると考えました。ビーズを色ごとに分ける、大きい順に並べる——数字を使わないこれらの活動が、数概念の土台になるという見方です。今回の研究で見つかった経路は、その古典的な洞察と静かに重なります。

ヴィゴツキーの視点を重ねると、もうひとつの面が見えてきます。規則を見つけたり空間をとらえたりする経験の多くは、大人とのやりとりのなかで起きます。「次は何色かな?」という一言が、子どもの思考をあと一歩だけ前に進める 足場かけ になる。つまり積み木を並べる時間は、算数の教室の前庭にあたるのです。

🔍 家庭で見かける「空間をとらえる力」

特別な教材は要りません。こんな場面がその力の現れです。

  • 積み木やブロック: この形はここに入る、と見通して置ける。
  • お手伝い: お皿を棚のすき間に収める、洗濯物をたたんで重ねる。
  • お絵かき: 紙のどこに何を描くか配置を考える。

「上手にできたね」より「どうしてそこに置いたの?」と聞くと、頭の中の地図が言葉になって出てきます。

読後感

数字を教えることと、数の感覚が育つことは、どうやら別の道筋を通っているようです。並べる、そろえる、重ねる——そんな何でもない動作のなかに、思考の輪郭が現れている。

今日、お子さんが夢中で並べていたものは、何でしたか?