子育て論文研究室
発達心理学

「数のちから」は2歳半からどう育つ? 45拠点・1,080人規模の大型研究が教えてくれること

📄 ManyNumbers 3: A Multi-Lab Study of Demographic Correlates of Early Number Knowledge.

✍️ Yu, Y., Barner, D., Mejia, M., Jung, S., Maheshwari, U., Gunderson, E. A., Fyfe, E., Duru, L. A., Abreu-Mendoza, R. A., Boni, I., Cordes, S., Dhaliwal, T., Feigenson, L., Lu, A., Hyde, D. C., Izard, V., Kibbe, M., Mbarki, R., Libertus, M., Arevalo-Jaimes, Y., Sullivan, J., Fiber, Z., vanMarle, K., Asmuth, J., Berch, D. B., Huang, G., Jirout, J., Hutchins, N., Kling, K., Levine, S. C., Boyer, T. W., Braithwaite, D., Brannon, E., Brez, C., Byers-Heinlein, K., Lew-Williams, C., Casey, K., Chen, K., Demir-Lira, E., Cook, S. W., Davis-Kean, P. E., DePascale, M., Eisenberg, A., Wang, J. J., Hurst, M. A., Martino, A., Feiman, R., Flaherty, M., Foucault, D., Park, J., Frank, M. C., Hartford, J., Friend, M., Yu, S., Gibson, D. J., Hoffman, M., Harris, M., Miller, S. E., Hund, A. M., Lorenz, M., Miyahara, A., Otuonye, C. J., Luna, M., McNeil, N. M., Matthews, P., Park, S., Yamoah, A., Mattox, N., Pruden, S., Mogan, A., Rittle-Johnson, B., Msall, C., Wilkey, E., Myers, L. J., Narasimhan, B., Opfer, J., Zhang, Y., Ramani, G., Ribner, A., Richland, L., Rose, E., Scalise, N. R., Shusterman, A., Spelke, E., Snedeker, J., Wang, Y., Soylu, F., Stahl, A., Thompson, C., Tillman, K., Wagner, J., Weaver, J.

📅 論文公開: 2026年

数の発達 社会経済的格差 大規模マルチラボ研究 ワーキングメモリ 保育参加 幼児期の数量感覚

3つのポイント

  1. 1

    2歳半〜6歳の子ども約1,080人を全米45拠点で調べる大規模研究で、数の力の育ち方に家庭環境がどう関わるかを明らかにしようとしています。

  2. 2

    「なんとなく量がわかる力」「数を唱える力」「数の意味がわかる力」の3つを分けて測ることで、どの力に家庭背景の影響が出やすいかをきめ細かく捉えます。

  3. 3

    保育施設への通園や、一時的に情報を頭の中で保持する力(ワーキングメモリ)が、格差を和らげる可能性があるかどうかも検証します。

論文プロフィール

  • 著者: Yu, Y.、Barner, D. ほか多数(全米45以上の研究室による共同研究)
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Developmental Science
  • 調査対象: 2歳6か月〜6歳0か月の子ども約1,080人(全米約45拠点から参加)
  • 調査内容: 幼児期の「数の力」の3側面(非言語的な量の弁別・暗唱数え・基数の意味理解)が、家庭の社会経済的背景(SES)や人種・民族とどのように関連するかを、大規模に検証する登録済み研究計画

エディターズ・ノート

「うちの子、まだ数が数えられなくて大丈夫かな」——そんなふとした心配を抱えたことのあるご家族は少なくないと思います。この研究は、数の力にはいくつかの異なる側面があり、その育ち方は家庭環境や社会的背景によって一様ではないことを、全米規模で丁寧に解きほぐそうとしています。ほかの子と比べるのではなく「うちの子なりの伸び」を大切にしたい——そんな気持ちにそっと寄り添ってくれる研究として、今回取り上げました。

実験デザイン

この研究は「ManyNumbers」と呼ばれる国際マルチラボプロジェクトの第3弾です。全米約45の研究室が同じ手順で実験を行い、約1,080人のデータを集めるという、個人差研究としてはきわめて大きな規模の設計になっています。

測定する「数の力」3つ

子どもの数の力を、一括りの「算数テスト」ではなく、以下の3つに分けて丁寧に測定します。

3つの数的スキルの概念図(数値は発達の複雑さの序列を示すイメージであり、実測値ではありません) 0 1 1 2 2 3 概念的な発達段階 1 量の弁別 2 暗唱数え 3 基数の理解
3つの数的スキルの概念図(数値は発達の複雑さの序列を示すイメージであり、実測値ではありません)
項目 概念的な発達段階
量の弁別 1
暗唱数え 2
基数の理解 3
3つの数的スキルの概念図(数値は発達の複雑さの序列を示すイメージであり、実測値ではありません)
  1. 非言語的な量の弁別(Nonverbal Numerosity Discrimination): 「こっちのお皿のほうがクッキーが多い」と、数えなくても直感的にわかる力です。これは言葉を覚える前から備わっている、数の力の土台と考えられています。
  2. 暗唱数え(Rote Counting): 「いち、に、さん、し…」と数詞を順番に唱える力です。おふろで数を数えたり、階段で声に出したりする、あの場面です。
  3. 基数の意味理解(Cardinal Number Word Knowledge): 「3つちょうだい」と言われて正確に3つ取れる力です。数詞がただの順番ではなく「量を表す言葉」だとわかっている状態を指します。
🔍 なぜ「分けて測る」ことが大事なのか

従来の多くの研究では、標準化された算数テスト(いろいろな数のスキルを合算した総合点)で子どもの力を評価してきました。しかし、この方法だと「どの力に差があるのか」が見えにくくなります。

たとえば、ある子は直感的に量を把握する力は十分にあるのに、数詞を覚える機会が少なかっただけかもしれません。3つを分けて測ることで、「この子はどこが伸びていて、どこにサポートが必要か」がはっきりします。

これは研究の精度を上げるだけでなく、一人ひとりの子に合った関わり方を考えるうえでも非常に大切な視点です。

検証する仮説

研究チームは大きく3つの問いを立てています。

  • 問い1: 家庭の社会経済的背景(SES)や人種・民族によって、3つの数的スキルそれぞれに差が見られるか?
  • 問い2: もし差があるとすれば、それはワーキングメモリ(頭の中で情報を一時的に保持しながら操作する力)の違いで説明できるか?
  • 問い3: 保育施設への通園が、背景による差を和らげる要因になっているか?

研究の特長:登録済み報告(Registered Report)

この研究は「登録済み報告」という形式を採っています。これはデータを集める前に研究計画と分析方法を学術誌に提出し、査読を受けてから実験を行うという方法です。結果が出てから都合の良い分析だけを報告する「後出し」を防ぐ仕組みで、研究の信頼性を高めています。

古典知見との接続

ピアジェの「数の保存」から、より豊かな理解へ

スキーマ(ものごとを理解するための心の枠組み) の理論で知られるピアジェは、子どもが「数の保存」——並べ方を変えても数は変わらないと理解すること——を獲得するのは6〜7歳頃だと考えました。しかし近年の研究では、ピアジェが想定したよりもずっと早い時期から、子どもは量に対する直感的な感覚を持っていることがわかっています。

本研究が「非言語的な量の弁別」を2歳半の子どもから測定しているのは、まさにこの知見を踏まえたものです。ピアジェの枠組みを否定するのではなく、より精緻に「数の理解はどんな階段を上るのか」を描こうとしています。

🔍 ピアジェの数の保存課題とは

有名な実験では、同じ数のおはじきを2列に並べ、片方の列だけ間隔を広げて見せます。4〜5歳の子どもの多くは「広がったほうが多い」と答えます。ピアジェはこれを「数の保存がまだ獲得されていない」と解釈しました。

ただし、もっと小さな数(2個 vs. 3個)や、子どもにとってなじみのある場面設定を使うと、もっと幼い子どもでも正しく判断できることが後の研究で示されています。本研究の「非言語的な量の弁別」課題は、こうした知見に基づいて設計されています。

ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」と環境の役割

発達の最近接領域(子どもが「もう少しで自分でできそう」なゾーン) を提唱したヴィゴツキーは、子どもの発達は社会的な関わりの中で進むと考えました。本研究が注目する「SESによる数的スキルの差」は、まさにこの視点と深く関わります。

暗唱数えや基数の意味理解は、日常のやりとりの中で大人から 足場かけ(子どもが「もうちょっと」でできることを、大人がそっと手助けすること) を受けることで育ちやすい力です。一方、非言語的な量の弁別は、言語的な働きかけへの依存度が相対的に低いと考えられています。もしSESによる差が言語的なスキル(暗唱数え・基数理解)に偏って現れるなら、それは子どもの「生まれ持った能力の差」ではなく、「数について言葉で対話する機会の差」を反映している可能性があります。

読後感

この研究はまだ結果が出る前の「登録済み研究計画」です。つまり、問いの立て方そのものに価値がある段階の論文です。

「数の力」を一つの塊として見るのではなく、3つに分けて丁寧に見ようとすること。差が見つかったとき、それを子どもの能力の問題にせず、環境や機会の問題として考えようとすること。この姿勢は、私たちが日々の子育てで持ちたい「観察の目」にも通じるものがあります。

みなさんのお子さんは、日常のどんな場面で「数」に出会っていますか? 階段を上るとき、おやつを分けるとき、絵本のページをめくるとき——ふと立ち止まって、その瞬間を一緒に味わってみてください。