すくすくベリー研究所
発達心理学

スマホ1時間以上で言葉の発達に影響? 3万人の大規模調査が示す「読み聞かせ」の緩衝効果

📄 Mobile device screen time is associated with poorer language development among toddlers: results from a large-scale survey.

✍️ Rayce, S.B., Okholm, G.T., Flensborg-Madsen, T.

📅 論文公開: 2024年1月

スクリーンタイム 言語発達 幼児期 読み聞かせ デジタル育児

3つのポイント

  1. 1

    2〜3歳の幼児3万人以上を対象とした調査で、1日1時間以上のスマホやタブレット利用が、言葉の理解・表現両方の発達の遅れと関連することが示されました。

  2. 2

    利用時間が1〜2時間、2時間以上と長くなるほど、言葉の発達に困難を抱えるリスクが高まる傾向が見られました。

  3. 3

    一方で、保護者が頻繁に「読み聞かせ」をすることで、言葉の『理解』面に対するモバイルデバイスのマイナスの影響が和らげられる可能性も示唆されました。

論文プロフィール

  • 著者: Rayce, S.B., Okholm, G.T., & Flensborg-Madsen, T.
  • 発表年: 2024年
  • 掲載誌: BMC Public Health
  • 調査対象: デンマーク在住の2〜3歳の幼児 31,125名
  • 調査内容: モバイルデバイス(スマートフォンやタブレット)の利用時間と、言語発達(言葉の理解・表現)との関連性を調査。また、読み聞かせなどの家庭環境がその関連にどう影響するかも分析しました。

エディターズ・ノート

スマートフォンやタブレットは、現代の子育てに欠かせないツールの一つです。しかし、その影響については様々な情報が飛び交い、「いつから、どのくらい使わせるべきか」と不安に感じる保護者の方も少なくないでしょう。

「スマホは悪」と単純に結論づけるのではなく、どうすれば賢く付き合っていけるのか。そのヒントを探るため、今回は3万人以上という非常に大規模な調査から、スクリーンタイムと言葉の発達のリアルな関係を探った論文を選びました。

実験デザイン

この研究は、デンマークで行われた大規模なアンケート調査のデータを用いています。31,125人もの2〜3歳のお子さんを対象に、保護者への質問を通じて、普段のモバイルデバイス利用時間や言葉の発達の様子を調べました。

分析の結果、1日のモバイルデバイス利用時間が1時間未満の子どもたちに比べ、1時間以上利用する子どもたちは、言葉の発達に困難を抱えるリスクが高いことがわかりました。

モバイルデバイス利用時間と言語発達困難リスクの関係(概念図) 0 0 1 1 1 1 言葉の困難を抱えるリスク 1 1時間未満 1.4 1時間以上
モバイルデバイス利用時間と言語発達困難リスクの関係(概念図)
項目 言葉の困難を抱えるリスク
1時間未満 1
1時間以上 1.4
モバイルデバイス利用時間と言語発達困難リスクの関係(概念図)

具体的には、1日に1〜2時間利用するお子さんは、言葉の「理解」(お話を聞いて意味をわかる力)に困難を抱えるリスクが1.30倍、言葉の「表現」(自分の気持ちを伝える力)では1.19倍に。2時間以上利用するお子さんでは、それぞれ1.42倍、1.46倍にまで上昇していました。

🔍 この研究の限界と注意点

この研究は、非常に多くのデータに基づいている一方で、あくまで「関連性」を示したものであり、「スマホが原因で言葉が遅れる」という因果関係を証明したものではありません。もしかすると、もともと言葉の発達に課題を抱えるお子さんほど、静かに過ごせるモバイルデバイスに触れる時間が長くなる、という逆の可能性も考えられます。また、アンケート調査のため、保護者の記憶の正確さにも結果が左右される可能性があります。

さらに興味深いのは、「読み聞かせ」の効果です。モバイルデバイスの利用時間が長くても、保護者が頻繁に読み聞かせをしているご家庭では、言葉の「理解」面でのマイナスの影響が和らぐ傾向が見られました。

スクリーンタイムが長い子における読み聞かせの緩衝効果(概念図) 0 0 1 1 1 1 言葉の理解困難のリスク 1.4 読み聞かせが少ない 1.2 読み聞かせが頻
スクリーンタイムが長い子における読み聞かせの緩衝効果(概念図)
項目 言葉の理解困難のリスク
読み聞かせが少ない 1.4
読み聞かせが頻繁 1.2
スクリーンタイムが長い子における読み聞かせの緩衝効果(概念図)

ただし、この緩衝効果は、自分の気持ちを言葉にする「表現」のスキルには見られませんでした。この結果は、言葉の発達において、インプット(理解)とアウトプット(表現)では、少し異なる支援が必要であることを示唆しています。

古典知見との接続

今回の研究で示された「読み聞かせ」の重要性は、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した考え方と深くつながります。

ヴィゴツキーは、子どもは一人でできること(現実の発達水準)と、大人の手助けがあればできること(潜在的な発達水準)の間に、「 発達の最近接領域 」という伸びしろのエリアを持っていると考えました。

絵本の読み聞かせは、まさにこの領域への絶好のアプローチです。 保護者が物語を読み、絵を指差し、「ワンワンがいるね」「悲しいお顔をしているね」と語りかける。こうした対話的な関わりは、子どもが一人ではまだ届かない新しい言葉や概念を理解するための 足場かけ(スキャフォルディング) となります。

モバイルデバイスからの情報が一方通行になりがちなのに対し、読み聞かせは親子の双方向のコミュニケーションを生み出し、子どもの言葉の世界を豊かに広げていくのです。

🔍 「言葉の表現」にはなぜ効果がなかった?

読み聞かせが言葉の「理解」にはプラスに働いた一方で、「表現」には緩衝効果が見られなかったのはなぜでしょうか。一つの仮説として、読み聞かせは主に言葉をインプットする活動であるため、直接的にアウトプット(話す力)を促すものではなかった可能性が考えられます。言葉で表現する力を育むには、読み聞かせに加えて、お子さん自身が「あれは何?」「こう思ったよ」と話す機会を、例えばごっこ遊びや日常の会話の中でたくさん作ってあげることが重要なのかもしれません。

すくすくベリーとしての解釈

私たちはこの研究結果を、デジタルツールとの付き合い方を考える上で非常に重要なヒントだと捉えています。単に「スクリーンタイムを制限する」という発想ではなく、「デジタル体験を、いかに現実世界の豊かな対話につなげるか」という視点が大切だと考えています。

プロダクト設計への示唆

この研究の知見は、すくすくベリーが遊びのログを解析する際の思想的背景になっています。

私たちは、単に「デジタル遊びの時間」を計測するだけではありません。その後に「保護者と絵本に関するやり取りをした」「動画に出てきたキャラクターでごっこ遊びをした」といったログが記録されているかを重視しています。

AIは、デジタルでのインプットが、現実世界での対話や表現活動というアウトプットに「橋渡し」されているかを重要な発達のシグナルとして捉えます。そして、もしデジタル体験で完結してしまっている傾向が見られた際には、「動画に出てきた動物の鳴きまねをしてみませんか?」といった、親子のコミュニケーションを促すフィードバックを提案する。そうした設計を目指しています。

ご家庭で今日からできること

スマホやタブレットでお子さんが動画を見た後、ぜひその内容について少しだけお話ししてみてください。「さっき見てたの、面白かったね」「どんなお話だったか教えてくれる?」といった短い問いかけで十分です。

デジタルで得た楽しい体験を、自分の言葉で誰かに伝える。この小さなステップが、お子さんの言葉の「表現力」を育む大切な一歩になります。

また、この研究は幼児期を対象としていますが、対話の重要性は生涯にわたるものです。幼児期に築かれた「体験を言葉で共有する」という親子の習慣は、やがて思春期に子どもが複雑な悩みを言葉で表現し、親とコミュニケーションをとるための貴重な土台となるでしょう。

読後感

テクノロジーが身近にある時代だからこそ、人との温かい対話の価値は一層高まっています。

あなたのお子さんは、スマホやタブレットで見た内容について、後からお話ししてくれることがありますか? その小さなサインに、どんな言葉を返してあげたいと感じますか?