SNSに振り回されにくかった子たち — ポーランドの中高生9073人が教えてくれたこと
📄 Teens and social media: determinants of problematic social media use among adolescents in Poland - risk and protective factors
✍️ Porwit, K, Szkultecka-Dębek, M, Izdebski, Z
📅 論文公開: 2026年1月
将来への見通しと家族との関係が、SNSとの距離の取りやすさとゆるやかに結びつく
- 1 ポーランドの12〜19歳9073人に匿名の調査を行いました
- 2 問題のある使い方は12.7%で、関連の強さは全体に控えめでした
- 3 将来への見通しと保護者との関係が、守りとして働いていました
問題のある使い方に当てはまった割合
論文プロフィール
- 著者: Porwit, K / Szkultecka-Dębek, M / Izdebski, Z
- 発表年・掲載誌: 2026年 International Journal of Occupational Medicine and Environmental Health(39巻3号)
- 調査対象: ポーランド・ルブシュ県の12〜19歳の生徒9073人(平均15.16歳、標準偏差1.56)
- 調査内容: 2024年に実施された匿名のオンライン質問紙調査。SNSの利用時間、家庭環境や社会的背景、本人の内的な資源(将来への見通しやヘルスリテラシー)、心身の健康状態と、SNSの「問題のある使い方」との関連を検討したもの
エディターズ・ノート
思春期のSNSについては「何時間まで」という時間の話に議論が集まりがちですが、この研究は同じ時間を使っていても状況が違って見える子がいることに目を向けています。リスクの要因だけでなく、守りの側の要因を同じ土俵で並べて示している点を、私たちは大切に受け取りました。
実験デザイン
対象は9073人と大規模ですが、デザインは1時点の横断調査です。SNSの問題のある使い方は、9項目からなる尺度で評価されました。
主な結果は次のとおりです。
- 問題のある使い方に当てはまったのは、参加者の**12.7%**でした
- 最も強い予測因子は、1日5時間を超えるSNS利用時間でした
- 頭痛や腹痛といった心身の不調が多いこと、well-being(心の健やかさ)が低いこと、学校でのストレスが高いことが、問題のある使い方と強く結びついていました
- 将来への見通しが低いこと、ヘルスリテラシー(健康に関する情報を理解し使う力)が低いこと、保護者との関係が良くないことは、問題のある使い方の可能性を高めていました
- 逆に、年齢が上であること、将来への見通しが高いこと、支えとなる保護者との関係があることは、問題のある使い方の可能性を下げる方向に働いていました
- 男子のほうが問題のある使い方に当てはまりやすく、著者らはこれを従来の知見とは異なる新しい観察だと述べています
ただし著者ら自身が、モデル全体の説明力は控えめだったと明記しています。つまり、ここに挙がった要因をすべて足し合わせても、その子がどうなるかを言い当てられるわけではありません。
🔍 横断調査でわかること・わからないこと
この研究は、ある一時点で「今どうなっているか」をまとめて尋ねた調査です。そのため、順番(どちらが先か)を確かめることができません。
- 「保護者との関係が良くないから、SNSに没入した」のかもしれません
- 「SNSへの没入が強まった結果、家族との会話が減った」のかもしれません
- あるいは、心身の不調のような第三の要因が、両方に影響しているのかもしれません
時間を追って同じ人を繰り返し測る 縦断研究 縦断研究 同一の参加者を長期間にわたって追跡調査する研究デザイン。発達的変化の因果関係を検討できる。 でなければ、この順番は解けません。この記事の内容も「関連が見られた」までであって、「こうすればこうなる」ではない、と読んでいただけたらと思います。
🔍 まっすぐではなかった関連 — 仲間の支えと学校の雰囲気
興味深いことに、友人からの支えや学校の雰囲気と、問題のある使い方との関係は、直線的ではなかったと報告されています。
「支えが多いほど良い」という単純な右肩上がりではなく、途中で向きが変わるような形だったということです。理由まではこの研究からは分かりませんが、たとえば友人関係が濃いほどSNSでのやりとりも増える、といった事情が絡んでいる可能性があります。
人とのつながりは、守りにも負荷にもなりうる。そのことを覚えておくと、目の前の子の状況を一つの物差しで測らずに済むかもしれません。
古典知見との接続
守りの要因として挙がった「将来への見通し(future orientation)」は、エリクソンが青年期の課題として描いたアイデンティティの探求と重なります。自分がどこへ向かっているのかという感覚を持てているとき、目の前の刺激に丸ごと持っていかれにくくなる、という構図です。
もう一つの守りの要因である「支えとなる保護者との関係」は、ボウルビィの 愛着(アタッチメント) アタッチメント(愛着) 乳幼児と養育者の間に形成される情緒的な絆。ボウルビィが提唱し、安定型・不安定型等に分類される。 の考え方につながります。愛着は乳幼児期だけの話ではなく、思春期にも「困ったときに戻れる場所がある」という感覚として働き続けると考えられています。安心して戻れる場所があることが、外の世界へ出ていくときの支えになるのです。
思春期は、家族から離れて仲間の世界へ重心を移していく時期です。だからこそ、離れることと戻れることの両方が要る。この研究で親子関係が守りの側に並んだことは、その古典的な見立てと静かに響き合っています。
🔍 思春期の「支えとなる関係」は、幼児期とは形が違います
幼児期の安心の土台が、抱っこや目線のやりとりでつくられるのに対して、思春期のそれはもっと控えめな形をとります。
- 何かあったときに、責められずに話せると本人が思えていること
- 意見が食い違っても、関係そのものは壊れないと分かっていること
- 干渉されすぎず、それでも関心は向けられていると感じられること
つまり「たくさん話す」ことよりも「話せる状態が保たれている」ことが要になります。会話が減った時期があっても、それだけで関係が失われたわけではありません。
読後感
9073人という大きな数字の向こうに、ひとりひとり違う事情を抱えた中高生がいます。この研究が守りとして挙げたのは、目新しい対策ではなく、「先の見通しが持てること」と「頼れる人がいること」という、ずいぶん昔から言われてきたことでした。
画面の向こうに何があるのかは、外からは見えません。それでも、画面から顔を上げたときにその子が見る景色は、まわりの人がつくれるものかもしれません。
今日、お子さんは何を楽しみにしていると思いますか。