子育て論文研究室
発達心理学

「人にどう見られるか」が怖い——思春期の社会不安が生まれる心の連鎖反応

📄 The Relationship between subjectively perceived life events and social anxiety among adolescents in Southwest China: the chain mediating effects of fear of negative evaluation and body shame.

✍️ Xiao, X., He, L., Xie, Q., Zhou, Z., Li, C., Li, X.

📅 論文公開: 2026年1月

社会不安 思春期 ネガティブライフイベント 否定的評価懸念 ボディシェイム 自己認知

3つのポイント

  1. 1

    つらい出来事を経験した思春期の子は、「人からどう見られるか」への恐れや「自分の身体が恥ずかしい」という感覚を経由して、社会不安が強まりやすいことがわかりました。

  2. 2

    この2つの気持ち(否定的評価への恐れ → 身体への恥)は単独でも、連鎖的にも社会不安を高める「3つの道筋」として働いていました。

  3. 3

    周囲の大人が否定的な評価を減らし、ありのままの姿を認める関わりが、社会不安の予防につながる可能性が示されています。

論文プロフィール

  • 著者: Xiao, X., He, L., Xie, Q., Zhou, Z., Li, C., Li, X.(2026年)
  • 掲載誌: BMC Public Health
  • 調査対象: 中国南西部の都市部・農村部の学校に通う13〜17歳の思春期の子900名(平均年齢14.57歳)
  • 調査内容: つらい出来事(ネガティブライフイベント)が、「人からどう見られるかへの恐れ(否定的評価懸念)」と「自分の身体への恥ずかしさ(ボディシェイム)」を経由して社会不安に至る道筋を検証

エディターズ・ノート

思春期の子が「人の目が気になって動けない」と感じるとき、その背景には何があるのでしょうか。本研究は、つらい出来事が社会不安に直結するだけでなく、「評価されることへの恐れ」と「自分の身体への恥」という2つの心理が連鎖的に橋渡しをしていることを丁寧に解きほぐしています。周囲の大人の「まなざし」が子の心にどう影響するかを考えるうえで、多くの示唆を含む論文です。

実験デザイン

本研究は、2024年11〜12月に中国南西部の都市部と農村部の学校から無作為抽出した900名の思春期の子(13〜17歳)を対象とした横断調査です。

参加者は4種類の自己記入式質問紙に回答しました。

  • ネガティブライフイベント尺度: 学業のつまずき、家族の問題、対人トラブルなど、日常で経験するつらい出来事の頻度と影響度を測定
  • 否定的評価懸念尺度: 「人に悪く思われていないか」「自分の行動をジャッジされていないか」という不安の強さを測定
  • ボディシェイム尺度: 自分の身体や外見に対する恥ずかしさ・不満足感を測定
  • 社会不安尺度: 人前で話す、集団に入るなどの社会的場面での不安の強さを測定

分析にはIBM SPSS 27.0と、媒介分析に特化したPROCESSマクロ(Version 4.1)を使用しています。

🔍 媒介分析とは?——「AがBを経てCに至る」道筋を調べる手法

相関分析では「AとCは関係がある」まではわかりますが、「なぜ関係があるのか」はわかりません。媒介分析は、AとCの間にBという「橋渡し役(媒介変数)」を置いて、「AがBを変化させ、そのBがCを変化させる」という道筋が統計的に成り立つかを検証する手法です。

本研究では「連続媒介モデル」を使い、つらい出来事(A)→ 否定的評価懸念(B₁)→ ボディシェイム(B₂)→ 社会不安(C)という2段階の橋渡しも検証しています。ただし横断調査のため、因果の方向は確定できない点には注意が必要です。

主な結果

すべての変数間に有意な正の相関が確認されました(いずれもp < 0.01)。

各変数間の相関係数(論文報告値、すべて p < 0.01) 0 0 0 0 1 1 相関係数(r) 0.558 つらい出来事 →評価懸念 0.6 つらい出来事 →身体への 0.492 つらい出来事 →社会不安 0.725 評価懸念身体への 0.584 評価懸念社会不安 0.634 身体への恥 →社会不安
各変数間の相関係数(論文報告値、すべて p < 0.01)
項目 相関係数(r)
つらい出来事 → 評価懸念 0.558
つらい出来事 → 身体への恥 0.6
つらい出来事 → 社会不安 0.492
評価懸念 → 身体への恥 0.725
評価懸念 → 社会不安 0.584
身体への恥 → 社会不安 0.634
各変数間の相関係数(論文報告値、すべて p < 0.01)

特に注目すべきは、否定的評価懸念とボディシェイムの相関がr = 0.725と非常に強い点です。「人にどう見られるか」への恐れと「自分の身体が恥ずかしい」という感覚は、思春期の子の心の中で強く結びついています。

3つの間接効果

つらい出来事が社会不安に至る間接的な道筋として、以下の3経路が確認されました。

つらい出来事から社会不安への直接効果と3つの間接効果(論文報告値) 0 0 0 0 0 0 効果量(β) 0.123 直接効果 0.118 評価懸念を経由 0.112 身体への恥を経 0.122 評価懸念→身体への恥の連鎖
つらい出来事から社会不安への直接効果と3つの間接効果(論文報告値)
項目 効果量(β)
直接効果 0.123
評価懸念を経由 0.118
身体への恥を経由 0.112
評価懸念→身体への恥の連鎖 0.122
つらい出来事から社会不安への直接効果と3つの間接効果(論文報告値)

3つの間接効果(合計0.352)は直接効果(0.123)を大きく上回っています。つまり、つらい出来事そのものよりも、その出来事をきっかけに生じる「評価への恐れ」や「身体への恥」という自己認知の変化が、社会不安を強める主要な経路となっているのです。

古典知見との接続

エリクソンの心理社会的発達理論との接点

愛着(アタッチメント) 理論の視点から本研究を読み解く前に、まずエリクソンの発達段階に目を向けてみましょう。

エリクソンは思春期を「自分とは何者か」を模索するアイデンティティの確立期と位置づけました。この時期、子は「自分はどんな人間で、周囲からどう見られているのか」を強く意識し始めます。

本研究が示した「否定的評価懸念」と「ボディシェイム」は、まさにこのアイデンティティ模索のなかで揺れ動く自己認知の2つの側面です。つらい出来事を経験した子が「自分は人からダメだと思われている」「自分の身体は恥ずかしい」と感じるとき、それはアイデンティティの土台が揺らいでいるサインとも読めます。

🔍 エリクソンの第5段階——「アイデンティティ vs 役割の混乱」

エリクソンの心理社会的発達理論では、思春期(およそ12〜18歳)は「アイデンティティ vs 役割の混乱」という発達課題に取り組む時期とされています。

この時期の子は、身体の急激な変化、友人関係の複雑化、学業のプレッシャーなどを受けながら、「自分は何者か」という問いに向き合います。周囲からの評価が自己像に強く影響するのは、まさにアイデンティティがまだ「工事中」だからです。

逆に言えば、この時期に「あなたはあなたのままでいい」と感じられる関係性があることは、アイデンティティの安定した土台をつくる助けになります。

ボウルビィの愛着理論との接点

愛着(アタッチメント) 理論を提唱したボウルビィは、幼少期に養育者との間で築かれた関係性が、子の心の中に「自分は愛される存在か」「他者は信頼できるか」という内的な枠組みをつくると考えました。

本研究で着目された「否定的評価懸念」は、この内的な枠組みと深く関わっています。幼い頃に「あなたのことを見ているよ」「そのままでいいんだよ」というメッセージを十分に受け取ってきた子は、思春期にネガティブな出来事を経験しても、「自分は根本的にダメなんだ」という認知に陥りにくいと考えられます。

つまり、思春期に表面化する社会不安の根っこには、もっと幼い頃からの「見守られてきた実感」が関わっている可能性があるのです。

読後感

思春期の子が「人の目が気になる」と感じるとき、その奥には「自分はどう評価されているのか」という静かな問いが渦巻いています。

本研究は、つらい出来事そのものよりも、そこから生まれる自己認知の連鎖——「悪く思われているかもしれない」「自分の身体が恥ずかしい」——が社会不安を強める主要な道筋であることを示しました。

だとすれば、大人にできることは、出来事を防ぐことだけではなく、子の自己認知が歪む手前で「あなたはそのままでいい」というメッセージを届け続けることなのかもしれません。

みなさんのご家庭では、お子さんの行動に対して「評価」と「観察」、どちらのまなざしが多くなっているでしょうか? お子さんが「ジャッジされている」のではなく「ちゃんと見てもらえている」と感じられる——そんな関わりが、今日もそっと積み重なっているのかもしれません。