すくすくベリー研究所
発達心理学

子どものネット依存リスクを予測する──欧州9か国2,500人規模の縦断研究プロトコル

📄 Research protocol for BootStRaP assessment phase: A nine-nation study on boosting societal adaptation and mental health in a rapidly digitalising, post-pandemic Europe.

✍️ Fineberg, N.A., Brandtner, A., Löchner, N., Kannen, C., Smith, M., Foster, S., Meinke, A., Mosler, K., Fine, S., Carmi, L., Friedman, T., Demetrovics, Z., Sales, C., Jones, J., Oliveira, H., Chamberlain, S.R., Ioannidis, K., Felvinczi, K., Zohar, J., Roman-Urrestarazu, A., Susi, M., Burkauskas, J., Lindenberg, K., Neumann, I., Huizink, A., Moreno, C., Corazza, O., Dias, T.S., Mohler-Kuo, M., Purper-Ouakil, D., Fongaro, E., Fally, S., Pallanti, S., Morgan, N., Czakó, A., Yucel, M., Rumpf, H.J., Walitza, S., Wellsted, D., Menchon, J.M., Montag, C., Hall, N., Brand, M.

📅 論文公開: 2026年1月

インターネット依存 デジタルウェルビーイング 実行機能 衝動性 思春期 縦断研究 機械学習 メンタルヘルス

3つのポイント

  1. 1

    欧州9か国の12〜16歳・2,500人以上を対象に、インターネットの使いすぎ(問題的使用)のリスク要因を6か月間追跡する大規模研究のプロトコルです。

  2. 2

    衝動性や注意の偏り、ブレーキをかける力(抑制制御)など、子ども個人の特性がネット依存リスクとどう結びつくかを、スマホアプリによるリアルタイム計測と機械学習で解析します。

  3. 3

    研究の最終目標は『リスクの高い子を早期に見つけ、一人ひとりに合った予防プログラムを届けること』であり、子育て中のご家庭にも多くのヒントがあります。

論文プロフィール

  • 著者: Fineberg, N.A. ほか42名(欧州9か国の研究チーム)
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Comprehensive Psychiatry
  • 調査対象: 欧州9か国の12〜16歳の学齢期の子ども2,500名以上
  • 調査内容: インターネットの問題的使用(Problematic Usage of the Internet: PUI)のリスク要因を、スマートフォンアプリを活用して6か月間前向きに追跡調査

エディターズ・ノート

「ゲームばかりで心配…」「動画の見すぎは脳に悪い?」──スマホやタブレットと子どもの関係に悩む声は、年々大きくなっています。しかし、「どんな子がリスクを抱えやすいのか」「そもそもどれくらいの割合が問題なのか」という基本的な問いに対して、信頼できるエビデンスはまだ驚くほど少ないのが現状です。本研究は欧州9か国・2,500人超という大規模な縦断デザインで、この問いに真正面から挑む野心的なプロジェクトです。デジタル時代を生きるすべてのご家庭に示唆のある一本として選びました。

実験デザイン

研究の全体像

BootStRaP(Boosting Societal Adaptation and Mental Health)は、5年間にわたる多国籍研究プログラムです。本論文はそのフェーズ1(評価段階)のプロトコルを報告しています。

参加者と手法:

  • 欧州9か国(ドイツ、英国、オランダ、ハンガリー、スペイン、ポルトガル、リトアニア、フランス、スイスなど)から12〜16歳の学齢期の子ども2,500名以上を募集
  • 専用スマートフォンアプリ「BootstrApp」を通じて、6か月間にわたりインターネット利用習慣・健康・ウェルビーイングを前向き(プロスペクティブ)に測定
  • 標準化された質問紙、日常環境での行動計測(アンビュラトリーアセスメント)、認知テスト、受動的デジタルモニタリングを組み合わせたマルチモーダルな評価
BootStRaPが用いる4つの評価モダリティの関係(概念図:数値は評価手法の多様さを概念的に示したもので、実測値ではありません) 0 1 2 2 3 4 評価の多面性(概念スコア) 4 質問紙調査 3 認知テスト 3 行動計測 2 デジタルモニタリング
BootStRaPが用いる4つの評価モダリティの関係(概念図:数値は評価手法の多様さを概念的に示したもので、実測値ではありません)
項目 評価の多面性(概念スコア)
質問紙調査 4
認知テスト 3
行動計測 3
デジタルモニタリング 2
BootStRaPが用いる4つの評価モダリティの関係(概念図:数値は評価手法の多様さを概念的に示したもので、実測値ではありません)

リスク要因のロジックモデル

この研究のユニークな点は、リスク要因を「なんとなく調べる」のではなく、エビデンスに基づくロジックモデルを事前に構築し、それを検証する形で設計されていることです。ロジックモデルは以下の3つの層で構成されます。

  1. 素因的リスク要因: 衝動性(やりたいことをすぐにやってしまう傾向)、強迫性(同じ行動を繰り返してしまう傾向)
  2. 感情・認知プロセス: ご褒美(報酬)に注意が偏りやすい傾向、ストレスへの対処の仕方
  3. 実行機能 : やりたい衝動にブレーキをかける力(抑制制御)、注意を柔軟に切り替える力など
🔍 『問題的使用(PUI)』とは何か?

「インターネット依存」という言葉は広く使われていますが、研究の世界ではより慎重な表現が用いられます。本研究が使う「問題的使用(Problematic Usage of the Internet: PUI)」とは、インターネットの使用が本人の生活機能(学業・友人関係・睡眠など)に悪影響を及ぼしている状態を指します。

単に「長時間使っている」だけではPUIとは呼びません。重要なのは「使い方が生活に支障をきたしているかどうか」です。たとえば、プログラミングに夢中で長時間PCを使う子と、SNSの通知が気になって勉強に集中できない子では、同じ「長時間利用」でも意味がまったく異なります。

データ解析

収集された多層的なデータは、機械学習と**構造方程式モデリング(SEM)**という2つの手法で解析されます。

  • 機械学習は、多数の変数の組み合わせからPUIのリスクが高い子どもを予測するアルゴリズムの開発に使われます
  • 構造方程式モデリングは、「衝動性 → 報酬への注意の偏り → 抑制制御の低下 → PUI」といった因果的な経路を統計的に検証するために用いられます

研究の到達目標

このフェーズ1の成果として、4つのアウトカムが設定されています。

  • A: PUIリスクの高い個人を予測するアルゴリズムの開発
  • B: フェーズ2で介入プログラムとしてテストできる、変化可能な要因(アクショナブル変数)の特定
  • C: ロジックモデルで仮説化されたリスク要因の相互作用の検証
  • D: 欧州の若者におけるPUIの健康経済コストの算出
🔍 子どもたちが研究デザインに参加している

本研究のもう一つの特徴は、若者自身がプロトコルの共同設計(コデザイン)に関わっている点です。募集計画やアプリのデザイン要素について、当事者である若者の意見が取り入れられています。

これは近年の研究倫理で重視される「参加型研究(Participatory Research)」の考え方に基づいています。研究の対象となる当事者が設計段階から関わることで、より実態に即した測定が可能になり、参加者の継続率も高まることが期待されます。

古典知見との接続

本研究が中心に据えている 実行機能 ──とりわけ「衝動を抑える力(抑制制御)」は、発達心理学で長く研究されてきたテーマです。

たとえば、有名な「マシュマロ・テスト」(ミシェル, 1960年代〜)では、目の前のマシュマロを我慢して2つもらえるのを待てる子どもほど、将来の学業成績や社会適応が良いことが示されました。これはまさに抑制制御の力を測る実験でした。

本研究は、この抑制制御の概念をデジタル環境に拡張しています。「目の前のマシュマロ」が「スマホの通知」や「次の動画のサムネイル」に置き換わったとき、子どもたちの「ブレーキをかける力」はどう機能するのか──これは現代ならではの問いです。

また、思春期は脳の前頭前皮質(実行機能を司る領域)がまだ発達途上にある時期です。衝動性が高まりやすく、同時にデジタル環境への接触が急増するこの時期に焦点を当てた研究デザインは、発達段階の特性を踏まえた合理的なアプローチといえます。

🔍 衝動性と強迫性──似ているようで違う2つの特性

本研究のロジックモデルでは、「衝動性(impulsivity)」と「強迫性(compulsivity)」がリスク要因として並べられています。この2つは混同されやすいのですが、実は異なるメカニズムです。

  • 衝動性: 「あ、面白そう!」と後先考えずに飛びつく傾向。新しいアプリやゲームを次々に試す行動に関連します。
  • 強迫性: 「やめたいのにやめられない」と同じ行動を繰り返す傾向。SNSのフィードを何度もリフレッシュしてしまう行動に関連します。

PUIの初期段階では衝動性が、慢性化した段階では強迫性がより強く関与するという仮説があり、本研究はこの移行プロセスも検証しようとしています。

すくすくベリーとしての解釈

プロダクトの視点から

この研究が目指す「複数の要因を組み合わせて、リスクの高い子を早期に見つける」というアプローチは、すくすくベリーの設計思想と深く共鳴しています。

すくすくベリーでは、お子さまの遊びや学習のログをAIが解析し、発達段階に応じたフィードバックをお届けしています。その際、単一の指標だけで判断しないという原則を大切にしています。たとえば、「集中時間が短い」という一つのデータだけでなく、遊びの種類・時間帯・前後の行動パターンなどを総合的に見ることで、より正確にお子さまの状態を理解できると考えています。

BootStRaP研究が質問紙・認知テスト・行動計測・デジタルモニタリングという4つのモダリティを組み合わせているのと同様に、すくすくベリーも多角的なデータからお子さま一人ひとりの「今」を丁寧に読み解くことを目指しています。

また、本研究が思春期(12〜16歳)に焦点を当てている点は、すくすくベリーが将来的に0歳から18歳までの全成長フェーズを支援するプラットフォームを目指すうえで、特に重要な知見です。幼児期に育まれた実行機能が、思春期のデジタル環境でどう発揮されるのか──この連続性を見据えた支援設計は、私たちがまさに探求している課題です。

ご家庭で意識できること

研究の結果が出るのはまだ先ですが、ロジックモデルから読み取れるヒントがあります。

「やめなさい!」の前に、「切り替え」の練習を日常に

お子さまがスマホやタブレットに夢中になっているとき、いきなり「やめなさい」と言うよりも、「あと5分で終わりにしよう」と予告し、自分でブレーキをかける体験を積むほうが、長い目で見て抑制制御の力を育てます。これは幼児期のお子さまにも、思春期のお子さまにも共通する考え方です。

大切なのは、「デジタル機器=悪」と決めつけないこと。本研究でも、問題なのは「使うこと」ではなく「使い方が生活に支障をきたすこと」と明確に区別しています。お子さまと一緒に「心地よい使い方」を探ること自体が、デジタルリテラシーの第一歩になるのではないでしょうか。

読後感

この研究は、まだ結果が出ていない「プロトコル論文」です。つまり、「こう調べます」という設計図を示した段階であり、「こうでした」という答えはこれからです。

それでも、2,500人以上の若者を9か国にまたがって追跡するこの壮大な試みは、デジタル時代の子育てに確かな道しるべを与えてくれるはずです。

お子さまがスマホやタブレットを使っているとき、どんな場面で「やめられない」と感じていそうですか? そしてそれは、「もっと見たい!」という好奇心の衝動でしょうか、それとも「なんとなくやめられない」という習慣の力でしょうか?──その違いに気づくことが、お子さまのデジタルとの付き合い方を一緒に考える、最初の一歩かもしれません。