すくすくベリー研究所
発達心理学

「これは何?」に深く答えられる子に。多言語環境が育む「言葉を客観視する力」

📄 Word definition as indicator of metalinguistic awareness in multilingual children.

✍️ Jessner, U.

📅 論文公開: 2026年1月

メタ言語意識 バイリンガル教育 言語発達 抽象思考

3つのポイント

  1. 1

    3言語環境で育つ子どもは、単言語環境の子どもより「言葉を説明する力」が高い傾向がありました。

  2. 2

    複数の言語に触れることで、言葉を客観的に見る力(メタ言語意識)が育まれる可能性が示唆されました。

  3. 3

    また、3言語環境の子どもは抽象的な言葉の理解も得意で、これはピアジェの古典的な発達段階説に新たな視点を提供するものです。

論文プロフィール

  • 著者名: Jessner, U.
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Brain and Language
  • 調査対象: イタリア・南チロル地方の8〜9歳の子どもたち(3言語環境の学校と、主にドイツ語を使う単言語環境の学校)。
  • 調査内容: 複数の言語環境で育つことが、言葉を客観的に捉える力(メタ言語意識)や、単語を定義する能力にどう影響するかを比較調査しました。

エディターズ・ノート

グローバル化が進む中、「子どもに早くから英語を習わせた方がいい?」「複数の言語に触れさせることは、混乱の元にならない?」といった疑問を持つ保護者の方は少なくないでしょう。

この論文は、複数の言語に触れることが単に「話せる言葉が増える」以上の、もっと深い「思考力」に繋がる可能性を示唆しています。言葉の不思議さに気づき、世界をより豊かに捉える力の育ち方について、一緒に探っていきましょう。

実験デザイン

この研究では、イタリア、ドイツ語、ラディン語という3つの公用語が使われる地域(南チロル)の小学校に通う子どもたちと、主にドイツ語のみが使われる学校に通う子どもたちの2つのグループを比較しました。

そして、「『椅子』って何?」のように、具体的な言葉や「『友情』って何?」といった抽象的な言葉を、どれだけ上手に説明できるか(単語定義能力)をテストしました。

その結果、3言語の環境で学ぶ子どもたちの方が、単言語の環境で学ぶ子どもたちよりも、単語を的確に定義する能力が高い傾向が見られました。

単語を説明する力の比較(概念図) 0 16 32 48 64 80 単語定義スコア(点) 80 3言語環境グループ 65 単言語環境グループ
単語を説明する力の比較(概念図)
項目 単語定義スコア(点)
3言語環境グループ 80
単言語環境グループ 65
単語を説明する力の比較(概念図)

これは、複数の言語に日常的に触れることで、子どもたちが無意識のうちに「言葉の仕組み」そのものに目を向けるようになるからではないか、と研究チームは考察しています。

🔍 「メタ言語意識」ってなんだろう?

メタ言語意識とは、一言でいうと「言葉を道具として客観的に見る力」のことです。

例えば、

  • 「『あめ』って、空から降る『雨』と、食べる『飴』の2つの意味があるね」と気づく力
  • 「『食べた』と『食べさせられた』では、気持ちが全然違うね」と文法の違いを面白がる力
  • しりとりで「『ん』で終わる言葉を言ったら負け」というルールを理解する力

これらはすべてメタ言語意識の働きです。言葉をただ使うだけでなく、言葉の音、意味、ルールに気づき、それを使って遊べるようになることが、その後の読解力や表現力の土台になっていきます。

🔍 研究の限界と注意点

この研究結果は非常に興味深いものですが、注意点もあります。調査対象となった南チロル地方は、3つの言語が生活の中に自然に溶け込んでいる特殊な環境です。そのため、例えば日本の家庭で英語の教材を少し使う、といった環境と単純に比較することはできません。

また、この研究は相関関係を示したものであり、「多言語教育がメタ言語意識を高める」という直接的な因果関係を証明したものではない点も心に留めておく必要があります。

古典知見との接続

この研究のもう一つの面白い点は、発達心理学の巨人、ジャン・ピアジェの理論に新たな光を当てたことです。

ピアジェは、子どもの思考は「具体的なモノ」から「抽象的な考え」へと段階的に発達すると考えました。彼によれば、この研究の対象である8〜9歳の子どもたちは、まだ具体的な物事に基づいて考える「具体的操作期」にあり、「友情」「正義」といった目に見えない抽象的な概念を正確に理解するのは難しいとされていました。

しかし、今回の研究では、3言語環境の子どもたちが、単言語環境の子どもたちよりも、抽象的な言葉の定義においても優れた成績を収めました。これは、豊かな言語環境が、ピアジェが想定したよりも早く、子どもの抽象的な思考を促す可能性を示唆しています。

複数の言葉を知ることで、一つの概念(例えば「愛」)が、言語によって少しずつ違うニュアンスで表現されることに気づきます。こうした経験が、言葉と概念を切り離して考える力、つまり抽象的思考のトレーニングになっているのかもしれません。

🔍 家庭で見る「具体的操作期」の姿

ピアジェの言う「具体的操作期」(およそ7〜11歳)の子どもの特徴は、日常生活でも見られます。

  • なぞなぞが得意になる: 「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」に「フライパン!」と答えられるのは、言葉を文字通りの意味から切り離して考えられるようになった証拠です。
  • 分類ができる: カードゲームで、同じマークや同じ数字のカードを集められるようになります。
  • 量の保存がわかる: 同じ量のジュースを細長いコップと平たいコップに入れても、量が同じだと理解できます。

一方で、「もし人間が空を飛べたら、世界はどうなる?」といった仮説的な問いに答えるのは、まだ少し苦手かもしれません。今回の研究は、こうした発達段階にも言語環境が影響を与える可能性を示した点で、非常に興味深いものです。


すくすくベリーとしての解釈

私たちは、この研究が示す「メタ言語意識」の重要性を、プロダクトの根幹にある思想の一つとして大切にしています。

言葉の「なぜ?」を引き出すAI

すくすくベリーは、お子さんの遊びのログから、単に「ひらがなが読めた」「単語を覚えた」という結果だけを見ているわけではありません。

例えば、お子さんがアプリの物語作り機能で「ぞうさんは『ぱおーん』と鳴きました」と入力したとします。そのログをAIが解析し、「『ぱおーん』というオノマトペ(擬音語)を適切に使えている」というシグナルとして捉えます。そして、保護者の方へのフィードバックとして「次は『しーん』や『ざあざあ』のように、音のない様子や自然の音を言葉で表現する遊びに誘ってみては?」と提案するかもしれません。

これは、言葉の数(語彙)を増やすだけでなく、言葉の性質や種類(機能)に気づく体験を促すための設計です。この研究の知見は、こうした「言葉の仕組み」への気づきを促す遊びをAIが提案する際の、科学的な根拠の一つとなっています。

ご家庭でできる「言葉の探検」

複数の言語を家庭で話す環境でなくても、お子さんのメタ言語意識を育むヒントはたくさんあります。

おすすめは**「言葉あつめゲーム」**です。

「『ふわふわ』なもの、お家の中にいくつあるかな?」 「『あ』から始まる、赤いものを探してみよう!」 「『ありがとう』と同じ意味の言葉、他にどんな言い方があるかな?」

このように、いつもの会話に少しだけ「言葉のルール」という視点を加えるだけで、お子さんは言葉を客観的に見る面白さに目覚めていきます。大切なのは、正解を教えることではなく、一緒に言葉の不思議さを楽しむ姿勢です。

この「言葉を客観視する力」は、幼児期の言葉遊びから始まり、思春期には複雑な文章を読み解いたり、自分の意見を論理的に表現したりする力の基礎となっていきます。すくすくベリーは、0歳から18歳までの長い発達の道のりを通して、こうした学びの土台作りをサポートしていきたいと考えています。

読後感

この記事を読んで、どんなことを感じましたか?

お子さんが、言葉の面白さや不思議さに気づいた瞬間はどんな時でしたか?あるいは、お子さん自身の名前の由来について、改めて話してみるのも素敵な「言葉の探検」になるかもしれませんね。