すくすくベリー研究所
発達心理学

3歳と5歳では違う?算数が得意になる子の「頭の使い方」

📄 How are cognitive abilities and mathematical abilities related in early childhood? Unraveling the mediation mechanism and age-related influences.

✍️ Zhu, T., Zhang, L.

📅 論文公開: 2025年1月

算数力 実行機能 幼児期 数感覚

3つのポイント

  1. 1

    計画を立ててやり遂げる力(実行機能)は、幼児期の算数力と深く関わっています。

  2. 2

    リンゴの山を見てどちらが多いか直感でわかる力(数感覚)が、実行機能と算数力をつなぐ大切な役割を担っています。

  3. 3

    この関係は年齢によって変化し、特に4歳半を境に、実行機能が算数力へより直接的に影響するようになります。

論文プロフィール

  • 著者・発表年: Zhu, T., & Zhang, L. (2025)
  • 掲載誌: Journal of Experimental Child Psychology
  • 調査対象: 3歳半から5歳半の中国の幼児 123名
  • 調査内容: 幼児期の 実行機能 や「数感覚」といった認知能力が、算数能力とどのように関連しているか、またその関係が年齢によってどう変わるかを調査しました。

エディターズ・ノート

「算数力」と一言で言っても、その土台には様々な認知能力が関わっています。特に幼児期は、能力の関連性がダイナミックに変化する大切な時期です。

この論文は、年齢ごとの発達の特徴を理解し、お子さま一人ひとりに合ったサポートのヒントを見つけるために選びました。算数力の土台となる「頭の使い方」の仕組みを一緒に探っていきましょう。

実験デザイン

この研究では、123名の幼児を対象に、いくつかの認知課題と算数課題に取り組んでもらいました。そして、それぞれの能力の関係性を統計的に分析しています。

特に重要なのは、「 実行機能 」と「算数能力」の間に「数感覚」がどのような役割を果たしているか、そしてその役割が年齢によってどう変わるかを明らかにしようとした点です。

結果として、年齢によって算数能力への影響の仕方に違いが見られました。

実行機能から数感覚を「経由した」間接的な影響(概念図) 0 14 28 42 56 70 影響の強さ(イメージ) 70 年少グループ (3.5-4.5歳) 30 年長グループ (4.5-5.5歳)
実行機能から数感覚を「経由した」間接的な影響(概念図)
項目 影響の強さ(イメージ)
年少グループ (3.5-4.5歳) 70
年長グループ (4.5-5.5歳) 30
実行機能から数感覚を「経由した」間接的な影響(概念図)
実行機能から算数能力への「直接的」な影響(概念図) 0 16 32 48 64 80 影響の強さ(イメージ) 20 年少グループ (3.5-4.5歳) 80 年長グループ (4.5-5.5歳)
実行機能から算数能力への「直接的」な影響(概念図)
項目 影響の強さ(イメージ)
年少グループ (3.5-4.5歳) 20
年長グループ (4.5-5.5歳) 80
実行機能から算数能力への「直接的」な影響(概念図)

グラフが示すように、年少グループでは、 実行機能 は主に「数感覚」というクッションを介して、算数能力に間接的に影響していました。

一方、年長グループになると、「数感覚」を介するルートに加えて、 実行機能 が算数能力そのものに直接的に影響する度合いが強まっていることが示唆されました。

🔍 「実行機能」と「数感覚」ってどんな力?
  • 実行機能: 目標のために自分の行動や思考をコントロールする力のことです。例えば、「おもちゃで遊びたい気持ちを抑えて、先にお片付けを済ませる(抑制制御)」、「ブロックで車を作っていたけど、次はお城を作ろうと頭を切り替える(認知の柔軟性)」といった力を含みます。
  • 数感覚 (Number Sense): 数や量に対する直感的な感覚のことです。「2つのうち、どちらのクッキーの山が多いかパッと見てわかる」「5は3より大きくて、10よりはだいぶ小さい、というような数の関係性がなんとなくわかる」といった力です。計算力とは少し違う、数のセンスのようなものとイメージすると分かりやすいかもしれません。
🔍 研究の限界と注意点

この研究は、特定の時点での能力を比較したものです(横断研究)。そのため、一人の子どもが年齢と共にどう変化するかを追跡したわけではありません。また、調査対象が中国の幼児であるため、文化的な背景が結果に影響している可能性も考えられます。これらの結果を全ての子どもに一般化する際には、慎重になる必要があります。

古典知見との接続

今回の研究結果は、ロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した 発達の最近接領域 の考え方ともつながります。

ヴィゴツキーは、「子どもは一人でできること」と「大人の助けがあればできること」の間の領域で最もよく学ぶと考えました。

実行機能 や数感覚も、生まれつきだけで決まるものではありません。大人が「どっちが多いかな?」と問いかけたり、「順番にやってみようか」と計画をサポートしたりする 足場かけ(スキャフォールディング) によって、子どもは少しずつ難しい課題を乗り越え、算数力の土台となる認知能力を育んでいくのです。

年少児には「数感覚」を豊かにする関わりを、年長児には「実行機能」を直接的に使うような課題を、というように、子どもの発達段階に応じた「足場かけ」を調整することの重要性が、この研究からも示唆されます。

すくすくベリーとしての解釈

私たちは、この研究が示す「算数力の土台となる認知能力の年齢による変化」を、プロダクトの設計思想の根幹に置いています。 遊びのログから、発達のシグナルを読み解く

すくすくベリーでは、お子さまの遊びのログをAIが解析します。

  • 「おままごとで、お皿を人数分ぴったり並べる」という行動は、数感覚が育っているサインかもしれません。
  • 「パズルを完成させるために、試行錯誤しながらピースを回転させる」行動は、計画性や思考の切り替えといった** 実行機能 **の表れと捉えることができます。

本研究の知見は、こうした行動ログを解釈する際の重要な指針となります。例えば、同じ「計画的な遊び」でも、年少のお子さまにはまず「量を比べる」といった数感覚へのフィードバックを、年長のお子さまには「次はどうする?と次のステップを考えさせる」といった実行機能そのものを促すフィードバックを、といった形で、年齢に応じた最適なサポートを設計する根拠となっています。 ご家庭でできる、算数力の土台作り

アプリを使っていなくても、ご家庭での関わりにこの知見を活かすことができます。

例えば、お片付けの時間に「まず、赤いブロックを全部箱に入れてみようか。次は青いブロックね」と声をかけてみましょう。これは、目標(部屋をきれいにする)のために、行動をステップに分解し、一つずつ集中して取り組む練習になり、 実行機能 を育むことにつながります。

この土台となる力は、幼児期だけでなく、学童期の文章問題の読解や、思春期の学習計画立案など、生涯にわたる学習の基礎となっていきます。

読後感

算数と聞くと、ついドリルや計算を思い浮かべがちですが、その根っこには、遊びや生活の中で育まれる、もっと広くて深い「頭の使い方」があるのかもしれませんね。

あなたのお子さまは、数を数えるのは得意ですか? それとも、量をパッと見て比べる方が得意ですか? お子さまの「数のとらえ方」の個性について、少し観察してみてはいかがでしょうか。