「スマホが手放せない…」子どもの感情コントロール、カギは"意識しない"調整力?
📄 Explicit and implicit emotion regulation in individuals with problematic internet use: Evidence from effective connectivity.
✍️ Guo, W., Zhao, C., Zhang, W.
📅 論文公開: 2026年1月
3つのポイント
- 1
インターネットを使いすぎる傾向のある人は、「よし、落ち着こう」と意識的に感情をコントロールするのが苦手な可能性があります。
- 2
一方で、何かに夢中になるうちに自然と気持ちが切り替わるような、無意識の感情調整能力には大きな差が見られませんでした。
- 3
この違いには、脳の「おでこの内側」あたりにある前頭前野という部分の働きが関係していることが示唆されました。
論文プロフィール
- 著者名: Guo, W., Zhao, C., & Zhang, W.
- 発表年: 2026年
- 掲載誌: Psychiatry Research: Neuroimaging
- 調査対象: 問題のあるインターネット利用(PIU)の傾向があるグループと、そうでない統制グループ
- 調査内容: 意識的な感情コントロール(明示的感情調整)と、無意識的な感情コントロール(暗示的感情調整)の能力を比較し、その際の脳活動をfNIRS(光トポグラフィー)で分析しました。
エディターズ・ノート
スマホやゲームとの付き合い方は、現代の子育てにおける大きなテーマの一つです。「取り上げる」「時間を制限する」といった対応も必要ですが、それだけで本当に子どもの心は育つのでしょうか?
今回ご紹介する論文は、インターネットを使いすぎてしまう傾向のある人は、意識的に感情をコントロールするのが苦手かもしれない、という可能性を示しています。しかし、希望もあります。無意識の感情調整力は、変わらず保たれているというのです。
「ダメ!」と正面からぶつかる以外の方法があるかもしれない。そんな新しい視点を得るために、この論文を選びました。
実験デザイン
研究チームは、参加者を2つのグループに分け、2種類の感情コントロール課題に取り組んでもらいました。
- 明示的感情調整(意識的なコントロール) ネガティブな感情を引き起こす画像を見せた後、「この感情を意識的に弱めてください」と指示し、その出来栄えを測定します。 (例:「悲しい気持ちになったけど、大丈夫。これはただの写真だ」と自分に言い聞かせて落ち着こうとする力)
- 暗示的感情調整(無意識のコントロール) ネガティブな画像と、数字を判断するような全く別の課題を同時に見せます。感情をコントロールするようには指示せず、別の課題に集中している間に感情がどう変化するかを測定します。 (例:嫌なことがあっても、大好きなパズルに夢中になっているうちに、いつの間にか気持ちが紛れている状態)
その結果、下の図(概念図)のように、意識的なコントロール(明示的調整)ではグループ間に差が見られましたが、無意識のコントロール(暗示的調整)では大きな差は見られませんでした。
| 項目 | 感情調整のスコア |
|---|---|
| 統制群(意識的) | 85 |
| PIU群(意識的) | 65 |
| 統制群(無意識) | 75 |
| PIU群(無意識) | 72 |
つまり、インターネットを使いすぎる傾向のある人は、「よし、切り替えよう!」と意識してもうまくいかないことがある一方で、何かに没頭するなどして無意識に気持ちが切り替わる力は、他の人と変わらず持っている可能性が示されたのです。
🔍 脳のどこで何が起きていたの?
この研究では、fNIRS(機能的近赤外分光法)という技術を使って、課題中の脳の活動を計測しました。その結果、問題のあるインターネット利用の傾向があるグループでは、感情のブレーキ役を担う脳の領域「腹内側前頭前野(vmpfc)」の活動が低いことが分かりました。
さらに、このvmpfcから、物事の価値判断に関わる「眼窩前頭皮質(ofc)」への信号の連携も弱まっていました。まるで、感情の司令塔から現場への指示がうまく届いていないような状態です。この脳のネットワークの働きが、意識的な感情コントロールの苦手さにつながっているのではないか、と研究者たちは考えています。
古典知見との接続
感情のコントロールは、心理学で 実行機能 実行機能 目標志向的な行動を制御する認知プロセスの総称。抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性を含む。 と呼ばれる、目標のために自分を管理する高度な心のはたらきの一つです。
この力は、生まれつき備わっているわけではなく、周りの人との関わりの中で少しずつ育っていきます。ロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した、 発達の最近接領域 発達の最近接領域 ヴィゴツキーが提唱した概念。子どもが一人ではできないが、大人の援助があればできる範囲のこと。 という考え方に似ています。
子どもが「一人ではできないけれど、手伝ってもらえればできる」ことに対して、大人がちょうど良い手助け( スキャフォルディング 足場かけ 学習者の理解レベルに応じて適切な支援を提供し、徐々に支援を減らしていく教育的介入手法。 )をすることで、子どもの能力は伸びていきます。
今回の研究結果は、感情コントロールにおける「足場かけ」のヒントを与えてくれます。「意識して気持ちを切り替えなさい!」と求めるだけでなく、子どもの注意をそっと別の楽しいことに向けてあげるような、「無意識の切り替え」を手伝う環境設定も、重要な足場かけなのかもしれません。
すくすくベリーとしての解釈
私たちはこの研究結果を、AIがお子さまの発達をサポートするための重要なヒントだと捉えています。
プロダクトの思想(AI解析への応用)
すくすくベリーは、お子さまの遊びのログから発達のサインを読み解きます。例えば、ある遊びから次の遊びへなかなか移れずにぐずってしまう、というログがあったとします。
これまでの私たちは、それを「気持ちの切り替え(実行機能の一部)に課題があるのかも」と捉えることが主でした。しかし今回の研究は、もう一つの視点を加えてくれます。それは、「意識的な切り替えは苦手でも、没頭できる他の遊びがあれば、無意識に気持ちを調整できる強みを持っているのかもしれない」という視点です。
将来的には、AIが「今、この遊びを提案すれば、お子さまは自然と気持ちを切り替えられそうです」といった、“暗示的な感情調整”をサポートするようなフィードバックを保護者の方へお届けすることを目指しています。それは、お子さまの「できないこと」を指摘するのではなく、「できる方法」を一緒に探す伴走者のような存在でありたい、という私たちの思想の表れです。
ご家庭でできること
お子さまがゲームや動画に夢中になり、やめる時間になっても癇癪を起してしまう…。そんな時、正面から「もうおしまい!」と叱る(明示的なコントロールを求める)前に、一つ試してみてほしいことがあります。
それは、お子さまの興味を引く別の活動を、さりげなく提示してみることです。
「お風呂で新しい泡のオモチャを使ってみない?」「大好きなあの絵本、一緒に読もうか」など、お子さまが「それ、やりたい!」と自然に思えるような選択肢を用意し、注意の矛先を変える手助けをしてあげるのです。これは、命令ではなく、あくまで提案です。この「無意識の誘導」が、お子さまの感情の波を穏やかに乗りこなすための、効果的なサーフボードになるかもしれません。
読後感
感情のコントロールというと、つい「我慢する力」や「意志の力」といった、意識的な側面ばかりに目が行きがちです。しかし、私たちの心は、もっとしなやかで、無意識のうちに自分を立て直す力も持っています。
あなたのお子さまは、どんな時に気持ちがスッと切り替わり、どんな時に切り替えが難しいと感じているように見えますか?
その行動の背景には、お子さまなりの「感情調整の得意・不得意」が隠されているのかもしれません。その個性を理解することが、より良いサポートへの第一歩になるのではないでしょうか。