すくすくベリー研究所
発達心理学

ショート動画の「見すぎ」が体の不満と食行動の乱れにつながる? ─ 看護師400名の追跡調査から

📄 Scrolling Toward Dissatisfaction? A Longitudinal Examination of Short-Form Video Use, Body Dissatisfaction, and Disordered Eating Among Nurses.

✍️ Hong, W., Yang, W., Niu, Y., Li, Q.

📅 論文公開: 2026年1月

メディアリテラシー ボディイメージ ショート動画 食行動 縦断研究

3つのポイント

  1. 1

    ショート動画をよく見る人ほど、4か月後に「自分の体への不満」が強まり、食行動の乱れにつながる傾向が確認されました。

  2. 2

    「やせていることが美しい」というメディアの価値観を強く受け入れている人ほど、ショート動画の影響を受けやすいことがわかりました。

  3. 3

    大人でもメディアの影響を受けるという結果は、子どもや思春期の子がさらに影響を受けやすい可能性を示唆しています。

論文プロフィール

  • 著者: Hong, W.・Yang, W.・Niu, Y.・Li, Q.(2026年)
  • 掲載誌: International Journal of Eating Disorders
  • 調査対象: 中国・武漢の病院に勤務する女性看護師400名(4か月後の追跡調査では270名が継続参加)
  • 調査内容: ショート動画(TikTokのような短尺動画)の視聴量が、体への不満感や食行動の乱れとどのように結びつくかを4か月間にわたって追跡。「やせ理想の内面化」や「メディアからのプレッシャーの感じ方」が影響を強めるかも検証。

エディターズ・ノート

「ショート動画が心に与える影響」と聞くと、10代の話だと思われがちです。しかし、この研究は大人の専門職でも影響を受けることを示しました。大人ですらそうであるならば、自己イメージが形成途上にある子どもや思春期のお子さんへの影響はなおさら気になるところです。「うちの子のスマホ時間、どう考えればいいんだろう?」というご家庭の問いに、ひとつの手がかりを届けたいと考え、本論文を選びました。

実験デザイン

この研究は 縦断研究 と呼ばれる手法を用いています。同じ人を時間をおいて2回調査することで、「先に起きたこと」と「後に起きたこと」の順序関係を捉えられるのが特徴です。 調査の流れ:

  1. 1回目(T1): ショート動画の視聴量と、外見に対する社会文化的態度(「やせ=きれい」というメディアの価値観をどの程度受け入れているか)を測定
  2. 4か月後(T2): 体への不満感と、食行動の乱れ(過度な食事制限や過食など)を測定

統計解析には構造方程式モデリング(SEM)とブートストラップ法を用い、以下の関係を検証しました。

ショート動画視聴から食行動の乱れへの影響経路(概念図:実際の数値ではなく関係性の強弱を示しています) 0 14 28 42 56 70 影響の相対的な大きさ 30 直接経路 70 体への不満を経
ショート動画視聴から食行動の乱れへの影響経路(概念図:実際の数値ではなく関係性の強弱を示しています)
項目 影響の相対的な大きさ
直接経路 30
体への不満を経由 70
ショート動画視聴から食行動の乱れへの影響経路(概念図:実際の数値ではなく関係性の強弱を示しています)

結果のポイント:

  • ショート動画の視聴量が多いほど、4か月後に「自分の体への不満」が高まっていました
  • その体への不満が、食行動の乱れ(過度なダイエットや過食傾向)につながっていました
  • つまり、ショート動画 → 体への不満 → 食行動の乱れという間接的な経路が統計的に確認されました

さらに重要なのは、「やせていることが美しい」というメディアの価値観を強く内面化している人ほど、ショート動画の視聴量と体への不満の結びつきが強かったことです。

🔍 なぜ看護師が対象だったのか?

これまでの研究では、メディアと食行動の関連は10代や大学生を対象にしたものがほとんどでした。しかし、大人になったからといってメディアの影響を受けなくなるわけではありません。

看護師という職業は、不規則な勤務体制で身体的・精神的ストレスが高く、食事のリズムも乱れやすいことが知られています。休憩時間にスマートフォンでショート動画を見ることも多く、メディア接触と食行動の関連を調べるのに適した対象と研究者は判断しました。

ただし、この対象選定には限界もあります。看護師は女性比率が高い特定の職業集団であり、この結果がすべての大人に当てはまるとは限りません。

🔍 「媒介」と「調整」ってどう違うの?

この研究には2つの統計的な仕組みが登場します。

  • 媒介(メディエーション): AがCに影響するとき、その間にBという「経由地」がある関係です。今回は「ショート動画視聴(A)→ 体への不満(B)→ 食行動の乱れ(C)」という経路が媒介にあたります。
  • 調整(モデレーション): ある条件によって、AとBの関係の強さが変わることです。今回は「やせ理想の内面化が強い人ほど、ショート動画視聴と体への不満の結びつきが強い」という部分が調整にあたります。

つまり、ショート動画を見ること自体が直接食行動を乱すのではなく、「体への不満」を経由して影響が生じ、その影響の受けやすさは個人の価値観によって異なる、という多層的な構造が明らかになりました。

古典知見との接続

この研究の知見は、エリクソンの発達理論と深くつながっています。

エリクソンは、人が生涯を通じて「自分は何者か」というアイデンティティを形成・更新し続けると考えました。特に思春期は「自分の見た目や体」を通じて自己像を確立する重要な時期ですが、この研究は大人になってもメディアからの情報が自己像を揺さぶりうることを示しています。

子どもの発達で考えると、幼児期から学童期にかけて「自分の体ってこういうものだ」「自分はこういう存在だ」という感覚が少しずつ育っていきます。そこにショート動画のような大量の視覚情報が入ってくると、まだ柔らかい自己像がメディアの理想像に引きずられやすくなる可能性があります。

🔍 エリクソンの発達段階とボディイメージ

エリクソンの8つの発達段階のうち、ボディイメージに特に関わるのは以下の段階です。

  • 幼児後期(3〜5歳)「自発性 vs 罪悪感」: 自分の体を使って積極的に遊び、「できた!」という感覚を積み重ねる時期。体への肯定感の土台がここで育ちます。
  • 学童期(6〜12歳)「勤勉性 vs 劣等感」: 友達と自分を比べ始める時期。「○○ちゃんのほうがかわいい」といった比較が始まります。
  • 青年期(13〜18歳)「同一性 vs 役割の混乱」: 「自分はどう見られているか」が大きなテーマになり、SNSの影響を最も受けやすい時期です。

今回の研究は成人が対象ですが、自己像がまだ固まっていない子どもや青年期のほうが、こうしたメディアの影響をより強く受ける可能性があると考えられます。

すくすくベリーとしての解釈

プロダクトの視点から:

この研究が示す「メディア接触 → 自己イメージの変化 → 行動の変化」という経路は、すくすくベリーが子どもの行動ログを解析する際に重要な示唆を与えてくれます。

私たちは、子どものメディア利用を「量」だけで判断するのではなく、どんなコンテンツに、どんなパターンで接触しているかという質的な側面にも注目する必要があると考えています。たとえば、動画視聴後にお子さんの遊びの選択や自己表現がどう変化するかを捉えることで、ポジティブな影響とネガティブな影響を区別できる可能性があります。

ただし、これはまだ私たちの仮説の段階です。ショート動画の影響は個人差が大きく、同じ動画でもお子さんの発達段階や性格によって受け止め方は異なります。「動画=悪」と単純化するのではなく、お子さんの反応を丁寧に見ていく仕組みを、これからも模索していきたいと考えています。 ご家庭で意識できること:

この研究から得られる家庭での実践ヒントは、「見た後の会話」を大切にすることです。

お子さんが動画を見た後に「あの人みたいになりたい」「自分はダメだ」といった発言が増えていないか、さりげなく気にかけてみてください。もし気になる変化があれば、「動画の中の人はどう思った?」「あなたはどんなところが素敵だと思う?」と、お子さん自身の考えを引き出す対話が効果的です。

この研究は成人女性が対象ですが、0〜18歳のお子さんの成長を見据えると、特に思春期に入る前の時期から「メディアの情報と自分の価値は別のもの」という感覚を育てておくことが、将来的な心の健康を守る土台になるかもしれません。

読後感

大人でも、ふとした瞬間にSNSで見た「理想の体型」が気になってしまうことがあります。それが研究で確認されたということは、発達途上のお子さんにとってはなおのこと、メディアとの付き合い方が大切なテーマになりそうです。

あなたのお子さんは、動画やSNSを見た後に、どんな言葉を口にしていますか? その言葉の中に、お子さんの自己イメージのヒントが隠れているかもしれません。