すくすくベリー研究所
教育心理学

遊びを中心とした教育介入の難しさと可能性:なぜ「遊び」の効果は証明しづらいのか?

📄 Play is a play, is a play, is a play… or is it? Challenges in designing, implementing and evaluating play-based interventions.

✍️ Bodrova, E., Leong, D. J., Yudina, E.

📅 論文公開: 2023年1月

遊び 社会情動的学習 非認知能力

🕒この記事の元論文は出版から3年以上が経過しています。最新の研究も併せてご確認ください。

3つのポイント

  1. 1

    遊びを通じた教育的介入は重要視されていますが、科学的にその効果を証明するのは非常に難しいとされています。

  2. 2

    その理由は、子ども主体の「自由な遊び」を大人がコントロールしたり、数値で一律に評価したりすることに限界があるためです。

  3. 3

    今後の研究では、遊びの質をどう測り、成長の成果としてどう評価するかについて、新しいアプローチが求められています。

論文プロフィール

  • 著者名:Bodrova, E., Leong, D. J., Yudina, E.
  • 発表年:2023年
  • 掲載誌:Frontiers in Psychology
  • 調査対象:幼児期(主に3〜6歳)の教育現場
  • 調査内容:思いやりや感情のコントロール、友だちとの協力など、社会で生きていくための心の力を育む「社会・情動的学習(SEL)」において、「遊び」を取り入れた教育介入の効果測定が抱える課題の分析と今後の展望

エディターズ・ノート

「遊んでばかりいないで、お勉強したら?」と不安になる保護者の方も多いかもしれません。しかし幼児教育において「遊び」は最も重要な学びの場です。本論文は、「遊び」の教育的効果を科学的に証明することの難しさと、それでも「遊び」が重要である理由を深く掘り下げた、私たちにとって非常に意義深い研究です。


実験デザインと研究の背景

本論文は、実験データを報告するものではなく、なぜ「遊びの効果」を示す証拠(エビデンス)が不十分になりがちなのかを分析した理論的な研究です。

著者の指摘をシンプルにすると、教育現場には「ジレンマ」が存在します。大人が介入してルールを決めれば、子どもが何を学んだか(評価のしやすさ)は上がりやすくなります。しかし同時に、子ども自身が「自分の意志で遊んでいる」という感覚や、自由な発想から生まれる学びの質は下がってしまう可能性があるのです。

大人の介入と遊びの質の関係(概念図) 0 20 40 59 79 99 度合い 大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高) 評価のしやすさ: 20 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=1) 評価のしやすさ: 50 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=2) 評価のしやすさ: 80 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=3) 子ども主体の遊びらしさ: 90 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=1) 子ども主体の遊びらしさ: 60 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=2) 子ども主体の遊びらしさ: 20 (大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高)=3) 評価のしやすさ 子ども主体の遊びらしさ
大人の介入と遊びの質の関係(概念図)
系列 大人のコントロール度合い(1:低 → 3:高) 度合い
評価のしやすさ 1 20
評価のしやすさ 2 50
評価のしやすさ 3 80
子ども主体の遊びらしさ 1 90
子ども主体の遊びらしさ 2 60
子ども主体の遊びらしさ 3 20
大人の介入と遊びの質の関係(概念図)

学力テストのように「何点取れたか」で測ることが難しいのが、遊びを通じた心の成長です。「自由な遊び」と「大人の意図した学習」をどう両立させ、どう評価するかが、今後の大きな課題とされています。


古典知見との接続

幼児期の遊びの重要性を語る上で欠かせないのが、ヴィゴツキーの理論です。ヴィゴツキーは、遊びの中で子どもが普段以上の力を発揮できる領域である 発達の最近接領域 を作り出すと考えました。

ごっこ遊びなどで「お母さん役」や「お店屋さん」になりきることで、子どもは一時的に自分の年齢以上の振る舞い(例えば、自分自身の欲求を抑えて役になりきるなど)を経験します。この「少し背伸びをした遊び」こそが、心を大きく成長させる基盤になるのです。


すくすくベリーとしての解釈

本論文が指摘するように、遊びの効果を画一的なテストや一律の基準で測ることには限界があります。私たちはこの難しさを真摯に受け止め、「すくすくベリー」の設計に活かそうとしています。

私たちは、子どもが自由に遊んでいる「ありのままのログ」をAIで多角的に解析することで、大人が設定したテストでは測れなかった「社会・情動的な成長の小さなサイン」を拾い上げることを目指しています。たとえば、ブロック遊びでの失敗に対する向き合い方や、ごっこ遊びでの柔軟なルールの変更といった小さな行動を、発達の重要なシグナルとして捉えようと探求を続けています。

ご家庭でのヒントとして、遊びを「何かを学ばせるための手段」として大人がコントロールしすぎないことをおすすめします。まずは子どもが主体的に楽しむ自由な遊びを見守り、その中にある「順番を待てた」「自分で新しいルールを作れた」などの成長に目を向けてみてください。

また、こうした遊びの重要性は幼児期に留まりません。思春期における「仲間との自由な対話」や「趣味への没頭」もまた、心の成長を促す大切な「遊び」です。私たちは0歳から18歳までの全フェーズで、見えにくい成長に温かく伴走するプラットフォームでありたいと考えています。


読後感

あなたのお子さんが最近一番夢中になっていた「遊び」には、どんな心の成長の種が隠れていそうでしょうか? 少しだけ離れた場所から、お子さんの遊びの世界を眺めてみませんか。