子育て論文研究室
発達心理学

泣く・あやす・スマホ:生後5か月までに芽生える『メディアであやす』習慣

📄 Crying, Cradles, and Cellphones: A Longitudinal Examination of Infant Media Emotion Regulation and Socio-Emotional Development in Early Infancy

✍️ McDaniel, B. T., Ventura, A. K., Coyne, S. M., Wolfers, L. N., Pfafman, R., Shinde, A. S., Uva, S., Coleman, B., Ceja Almontes, K. I., Galovan, A. M.

📅 論文公開: 2026年

乳児 感情調整 スマホ育児 縦断研究 養育者ケア

3つのポイント

  1. 1

    生後2か月で12%だった『メディアで赤ちゃんの機嫌をとる』習慣は、5か月で23%へと約2倍に増えていました。

  2. 2

    ごく早い時期のメディア使用は、赤ちゃんの問題というより、保護者自身の気持ちの揺らぎや負担と結びついていました。

  3. 3

    月齢が進むと使用が『習慣』になりやすく、早い時期の寄り添いが鍵になる可能性が示されました。

赤ちゃんがぐずったとき、思わずスマホの動画を見せてあやした——そんな経験のあるご家族は少なくないかもしれません。今回ご紹介するのは、その「メディアであやす」という行動が、いつ・どんな背景から芽生えるのかを、生後2〜5か月という非常に早い時期に丁寧に追いかけた研究です。

論文プロフィール

  • 著者: McDaniel, Ventura, Coyne, Wolfers ほか(計10名)
  • 発表年 / 掲載誌: 2026年・Infancy
  • 調査対象: 母親と乳児のペア163組。赤ちゃんが生後2・3・4・5か月のときに継続的に調査
  • 調査内容: 子どもの感情を落ち着かせるためにデジタルメディアを使う「メディア感情調整(media emotion regulation)」が、いつ始まり、何と結びつくのかを縦断的に検討。母親の抑うつ・スマホ使用・赤ちゃんのぐずり行動などとの関連も分析

エディターズ・ノート

「メディアであやす」ことの研究はこれまで幼児・未就学児が中心でした。本研究は、それが生後わずか数か月という想像以上に早い段階で芽生えうることを、複数の方法で丁寧に捉えています。子育てのリアルな一場面を、責めるのではなく理解しようとする姿勢に、いまこの知見を届けたい理由があります。

実験デザイン

本研究は 縦断研究 として、163組の母子を生後2か月から5か月まで毎月追跡しました。データは一つの方法に頼らず、次の複数の入口から集められています。

  • 月次のアンケート調査
  • 日常のその瞬間を尋ねる EMA(生態学的瞬間評価)
  • 母親のスマホ使用を自動で記録する受動センシング
  • 生後2か月と5か月時点での授乳場面の観察

複数の方法を重ねることで、「言葉で答えた印象」と「実際の行動」の両面から現実に迫ろうとしている点が、この研究の誠実なところです。

本研究が報告した代表的な数値として、「メディアであやす」習慣の出現率の変化があります。

「メディアで赤ちゃんをあやす」習慣の出現率(McDaniel et al., 2026, Infancy より) 0 5 9 14 18 23 出現率(%) 12 生後2か月 23 生後5か月
「メディアで赤ちゃんをあやす」習慣の出現率(McDaniel et al., 2026, Infancy より)
項目 出現率(%)
生後2か月 12
生後5か月 23
「メディアで赤ちゃんをあやす」習慣の出現率(McDaniel et al., 2026, Infancy より)

わずか3か月のあいだに、約12%から約23%へとほぼ倍増しています。さらに、その背景は時期によって移り変わっていました。

  • 生後2か月ごろ: 母親自身の 気持ちのコントロールの難しさ (感情の調整がうまくいきにくい状態)や、赤ちゃんの行動を否定的に捉える見方と結びついていた
  • 生後4〜5か月ごろ: 母親のスマホ使用そのものや、赤ちゃんへの感受性との関連が見え始めた

著者らは、ごく早い時期の「メディアであやす」は保護者の気持ちの揺らぎやストレスから生まれやすい一方で、時間とともに「習慣」へと変わっていく可能性がある、と考察しています。

🔍 この研究をどう読めばよいか(限界点)

この研究は関連(つながり)を示すものであり、「メディアであやすこと自体が悪影響を生む」という因果関係を証明したものではありません。

  • 対象は母親と乳児のペアで、他の養育者は今回の中心ではありません。ご家庭の形は本来もっと多様です。
  • 出現率はあくまで集団全体の平均的な傾向であり、個々のご家庭に当てはめて優劣を測るものではありません。
  • 「メディアであやすこと」と「保護者の気持ちの揺らぎ」がつながっていたという発見は、保護者を責める材料ではなく、寄り添いが必要なサインとして読むのが誠実です。

古典知見との接続

この研究を理解するうえで助けになるのが、ボウルビィの 愛着(アタッチメント) の考え方です。赤ちゃんが泣いたとき、養育者がその合図に気づき、応えるやりとりの積み重ねが、安心の土台を育てていくと考えられてきました。

本研究で「赤ちゃんの合図の明瞭さ」や「母親への反応性」といった社会情緒的な側面が注目されているのも、この古典的な視点と地続きです。メディアであやすことは、その応答のやりとりの「あいだ」に入りうる要素として捉えられます。ここで大切なのは、メディアを善悪で裁くことではなく、応答のやりとり全体のなかでどんな意味を持つのかを丁寧に見ていくことです。

🔍 家庭で気づける『合図』の具体例

赤ちゃんの「合図」は、泣き声だけではありません。

  • 目線: 興味のあるものをじっと見つめる、または視線をそらして「もう十分」と伝える
  • 手足の動き: 機嫌のよいときの活発な動き、緊張したときのこわばり
  • : 泣く前の小さなぐずり声、心地よいときのクーイング(喉を鳴らすような声)

こうした小さなサインに気づけると、あやす前に「いま何を伝えようとしているのかな」と一呼吸おく余地が生まれます。

読後感

赤ちゃんをあやす場面には、子どもの気持ちだけでなく、私たち大人自身の気持ちも一緒に映り込んでいるのかもしれません。

今日、お子さんがぐずったとき、ご自身はどんな気持ちでそばにいましたか。そして、そのときのご自分を、少し労ってあげられたでしょうか。