すくすくベリー研究所
発達心理学

「いや!」の裏にある心の声。感情を言葉にすると、子どもの心は強くなる

📄 Labeling it makes you feel better: The role of affect labeling on emotion regulation among Chinese preschoolers.

✍️ Zhu, C., Ip, K.I., Liu, Z., Yan, N.

📅 論文公開: 2026年1月

感情調整 就学前期 言葉の発達 自己理解

3つのポイント

  1. 1

    自分の気持ちに「悲しい」「嬉しい」と名前をつける(感情ラベリング)能力が高い子どもは、感情のコントロールも上手でした。

  2. 2

    日々の生活の中で自分の感情を言葉にできた日は、嫌な気持ちからの立ち直りが早いことも分かりました。

  3. 3

    もともと感情を言葉にするのが得意な子は、この「気持ちに名前をつける」という方法を、心を落ち着かせるために効果的に使っていました。

論文プロフィール

  • 著者名: Zhu, C., Ip, K.I., Liu, Z., Yan, N.
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Child Development
  • 調査対象: 中国の就学前の子ども334名(平均年齢 約5歳2ヶ月)とその保護者・教師
  • 調査内容: 自分の感情に名前をつける「感情ラベリング」という行為が、気持ちを落ち着かせたり切り替えたりする「感情調整」の能力にどう影響するかを調査しました。

エディターズ・ノート

子どもが癇癪を起こしたとき、「気持ちを代弁してあげましょう」とアドバイスされた経験はありませんか? なぜ、ただ気持ちを言葉にするだけで、子どもの心は落ち着くのでしょうか。

今回ご紹介する論文は、そのメカニズムを科学的に探求した研究です。感情と言葉の不思議な関係を解き明かし、日々の声かけが持つ深い意味を一緒に考えていきたいと思います。

実験デザイン

この研究は、大きく2つの方法で「感情を言葉にする力」と「心をコントロールする力」の関係を調べました。

  1. 質問紙調査: 334名の子どもを対象に、感情を認識したり、感情に関する言葉をどれだけ知っているか(感情ラベリング能力)をテストしました。そして、その結果と、保護者や先生から見た「普段の感情コントロールの上手さ」との関連性を分析しました。
  2. 日記調査: 参加者のうち181名に協力してもらい、14日間にわたって「その日、子どもが自分の感情を言葉にできたか」「嫌な出来事からどれくらいで立ち直れたか」などを記録してもらいました。

その結果、感情を言葉にする力は、感情コントロール能力と強い関係があることが示唆されました。

感情を言葉にする力と感情コントロールの関係(概念図) 0 16 32 48 64 80 感情コントロールの上手さ 80 感情を言葉にする力が高い子 50 感情を言葉にする力が低い子
感情を言葉にする力と感情コントロールの関係(概念図)
項目 感情コントロールの上手さ
感情を言葉にする力が高い子 80
感情を言葉にする力が低い子 50
感情を言葉にする力と感情コントロールの関係(概念図)
🔍 この研究の限界と注意点

この研究は、感情ラベリングと感情調整の間に「関連がある」ことを示しましたが、どちらが原因でどちらが結果かを断定するものではありません。例えば、「もともと感情調整が上手な子が、結果的に感情を言葉にするのも得意になった」という可能性も考えられます。

また、調査対象が中国の就学前児童であるため、他の文化圏や年齢の子どもたちに同じ結果が当てはまるとは限りません。とはいえ、感情と言葉の関係は普遍的なテーマであり、私たちの子育てにも多くのヒントを与えてくれます。

古典知見との接続

自分の気持ちに言葉を与えることで、漠然としたモヤモヤとした感情が、輪郭のはっきりした「扱える」ものに変わります。このプロセスは、ロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した「言葉による思考のコントロール」という考え方と深くつながります。

ヴィゴツキーは、子どもが自分自身に話しかける「独り言」が、行動をコントロールするための重要なステップだと考えました。初めは、親が「危ないよ」「待ってね」と外から声をかけることで子どもの行動を導きます( 足場かけ )。やがて子どもは、その言葉を自分で使い、自分の行動を律するようになります。

感情も同じです。「ブロックが崩れて悔しいね」と大人が声をかけることで、子どもは「このモヤモヤは“悔しい”という気持ちなんだ」と学びます。この 足場かけ を繰り返すうちに、子どもは自分一人で感情に名前をつけ、心を整理できるようになるのです。これは、子どもが一人でできることの一歩先を支援する 発達の最近接領域 への働きかけと言えるでしょう。

🔍 「感情の解像度」を上げる

「ムカつく」という言葉一つにも、「悲しい」「悔しい」「羨ましい」「不安だ」など、様々な感情が隠れていることがあります。

大人が子どもの気持ちを代弁する時、より具体的な言葉を選んであげることで、子どもは自分の心の機微をより細かく理解できるようになります。これを「感情の解像度が上がる」と言います。解像度が上がると、なぜそう感じるのか、どうすればいいのか、次の一歩を考えやすくなるのです。

すくすくベリーとしての解釈

今回の研究知見は、私たちすくすくベリーが「子どもの発達をどう捉え、どう支援するか」というプロダクトの根幹に関わる重要な示唆を与えてくれます。

プロダクト思想への反映

私たちは、子どもが遊びの中で発する「できた!」「いや!」「もっと!」といった言葉や、ため息、歓声などの音声を、単なる記録としてだけでなく、その子の内面世界への窓だと考えています。

この研究は、そうした感情表現のログをAIが解析する際、「感情に関する語彙がどれくらい豊かか」「特定の感情(例:フラストレーション)を表現した後に、どうやって遊びを立て直しているか」といったパターンに注目することの重要性を示してくれました。

例えば、AIが「『悔しい』という言葉の後に、もう一度挑戦する行動が増えている」というパターンを検知した場合、それはお子さんが感情ラベリングを自己調整に繋げ始めたサインかもしれません。すくすくベリーは、こうした成長の兆しを保護者の方にお届けし、「『悔しかったけど、もう一回やってみたんだね』と、挑戦した気持ちを認めてあげましょう」といった具体的なフィードバックを提案することを目指しています。

ご家庭でできること

この研究から得られる一番のヒントは、子どもの感情をジャッジせず、ただ「名前をつけてあげる」ことです。

子どもが泣いたり怒ったりしていると、つい「泣かないの」「我慢しなさい」と言いたくなるかもしれません。でも、まずは一呼吸おいて、「そっか、おもちゃを取られて悲しかったんだね」「うまくできなくて、もどかしいんだね」と、気持ちを言葉にして寄り添ってみてください。

これは感情を肯定することとは少し違います。あくまで「今、あなたはこう感じているんだね」と客観的に映し出す鏡になるイメージです。それだけで、子どもは自分の気持ちが受け入れられたと感じ、パニックから少し距離を置くことができるようになります。

このスキルは、幼児期だけでなく、友人関係に悩む思春期や、自分の将来に不安を抱く青年期まで、生涯にわたって自分自身の心と上手に付き合っていくための土台となるはずです。


読後感

感情に名前をつける。それは、自分の中にいるもう一人の自分と対話する第一歩なのかもしれません。

あなたのお子さんは、どんな言葉で自分の気持ちを表現しますか? あるいは、まだ言葉にできず、行動で示している「心の声」は、どんなものでしょうか。