「大丈夫」と思ってしまうのはなぜ? 子どもの痛みを報告しない親の複雑な心理
📄 Why primary caregivers fail to report pediatric pain: A qualitative study.
✍️ Shen, Q., Wei, X., Xu, DR., Jiang, X., Li, H., Leng, H., Zheng, X.
📅 論文公開: 2026年
3つのポイント
- 1
保護者が子どもの痛みを医療者に報告しないのは、単純な見落としではなく、複雑な心理プロセスが働いていることが分かりました。
- 2
「このくらいは普通」という思い込みや、「我慢は美徳」といった価値観が、痛みのサインを実際よりも軽いものだと判断させてしまうことがあります。
- 3
医療者への遠慮や「報告しても無駄かも」という気持ちなど、周りの環境も報告をためらわせる大きな要因になります。
論文プロフィール
- 著者名: Shen, Q. ら
- 発表年: 2026年
- 掲載誌: International Journal of Nursing Studies
- 調査対象: 中国の小児病院に入院中の子どもに付き添い、子どもの痛みを目撃したにもかかわらず医療者に報告しなかった主な養育者17名
- 調査内容: なぜ子どもの痛みを報告しなかったのかについて、面接調査(質的研究)を実施
エディターズ・ノート
我が子の痛みに、親なら誰よりも早く気づいてあげたい。そう願うのは自然なことです。
しかし、実際には痛みのサインに気づきながらも、医療者に伝えないという選択をしてしまうことがあります。それは一体なぜなのでしょうか?
この研究は、そんな保護者の複雑な心の動きを丁寧に解き明かし、私たちに大切な視点を与えてくれます。
実験デザイン
この研究は、数値を扱う量的研究ではなく、個人の経験や語りを深く分析する「質的研究」というアプローチをとっています。
研究チームは、中国の小児病院で子どもに付き添う保護者17名に、丁寧なインタビューを行いました。参加者は全員、「子どもが痛がっているのを見たけれど、医師や看護師には伝えなかった」という経験を持つ方々です。
インタビューの分析から、保護者が痛みを「報告しない」という決断に至るまでには、いくつかの心理的なステップがあることが明らかになりました。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ①注意のフィルター | 10 |
| ②脅威の評価 | 10 |
| ③対処の評価 | 10 |
| ④個人的・環境的要因 | 10 |
- 注意のフィルター 他のきょうだいの世話や仕事の連絡などで忙しく、そもそも子どもの痛みのサインに注意が向かない。あるいは「このくらいのことで騒ぐのは普通じゃない」と感じて、サインを意識的に無視してしまう段階です。
- 脅威の評価 痛みのサインに気づいた後、「この痛みは、本当に対処が必要なほど深刻だろうか?」と判断する段階です。ここで、「痛みに耐えることは良いことだ」という価値観や、「このくらいで大騒ぎすべきではない」という思いが、痛みの深刻さを低く見積もらせてしまうことがあります。
- 対処の評価 「この痛みを医療者に報告して、意味があるだろうか?」と考える段階です。「どうせ痛み止めは使ってくれないだろう」「自分で抱きしめてあげた方が早い」といった考えが、報告以外の行動(自分でなだめるなど)を選ばせることにつながります。
- 個人的・環境的要因 これら①〜③のプロセス全体に、保護者自身の性格や過去の病気の経験、また「他の親は報告していないから」といった周りの様子や、医療者が忙しそうにしているといった環境的な要因が影響を与えていました。
🔍 この研究の限界と注意点
この研究は、中国の特定の病院で17名の保護者を対象に行われた質的研究です。そのため、この結果がすべての国のすべての保護者に当てはまるわけではありません。
特に、「我慢を美徳とする」といった価値観は文化的な背景が影響している可能性があり、異なる文化圏では違う結果になることも考えられます。
しかし、子どものサインを前にした親の複雑な心の動きという点では、文化を超えて多くの示唆を与えてくれる貴重な研究だと言えるでしょう。
古典知見との接続
この研究は特定の古典理論に直接基づいてはいませんが、子どもの心の発達を考える上で、 愛着(アタッチメント) アタッチメント(愛着) 乳幼児と養育者の間に形成される情緒的な絆。ボウルビィが提唱し、安定型・不安定型等に分類される。 の視点から読み解くことができます。
愛着とは、子どもが不安や苦痛を感じた時に、特定の養育者(主に親)に近づき、安心感を得ようとする心の絆のことです。
子どもが発する「痛い」「つらい」といったSOSに対して、保護者が「どうしたの?」と敏感に受け止め、適切に応答を返すこと。この繰り返しの経験を通じて、子どもは「自分は助けを求めていい存在なんだ」「この世界は信頼できる場所なんだ」という感覚(専門用語で「内的作業モデル」と言います)を育んでいきます。
今回の研究が明らかにした「報告しない」という保護者の行動は、悪意からではなく、様々な要因によってこの「応答プロセス」が妨げられてしまっている状態と捉えることができます。
読後感
この記事を読んで、どんなことを感じましたか?
あなたがお子さんの「痛い」や「つらい」というサインに対して、「このくらいは大丈夫」と感じてしまうのは、どんな時でしょうか。その背景には、あなた自身のどんな気持ちが隠れているか、少しだけ考えてみるのも良いかもしれません。