子育て論文研究室
テーマ解説 (最終更新 2026年5月24日) 5本の研究をもとに解説

思春期の睡眠不足、なぜ起きる? 「夜更かし」の裏にある体・脳・文化の話

「もっと早く寝なさい」が届かない我が子。思春期の睡眠不足を、体内時計のずれ・脳の個人差・文化的背景から整理し、家庭で持っておきたいまなざしをお伝えします。

3つのポイント

  1. 1

    思春期に夜型になるのは「だらしなさ」ではなく、ホルモンの働きで体内時計が1〜2時間後ろにずれる生物学的な変化が背景にあると報告されています。

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    睡眠不足のサインは、女の子では不安や落ち込みとして、男の子ではイライラや行動の乱れとして現れやすい傾向があり、同じ言葉で受け止めにくいことがあります。

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    一律の「何時に寝る」より、「このお子さんにとってちょうどよい眠り」を一緒に探す姿勢が、長い目で学業と心の安定を支える土台になります。

「もっと早く寝なさいって何度言ったら…」「朝、何度起こしても起きない」——思春期のお子さまの睡眠について、ため息が出てしまう日はありませんか。小学生のときはあんなにすんなり寝ていたのに、中学生になった途端に夜型に変わってしまった、というご相談はとても多いものです。

このページでは、「何時に寝かせるのが正解か」という時間の答え合わせや、不眠症などの診断・治療には踏み込みません。代わりに、思春期の体と脳と社会の側で何が起きているのかを発達研究の知見から整理し、家庭で持っておくと少しラクになる視点をお伝えします。気がかりが強いときは、最後の「専門家に相談する目安」もあわせてご覧ください。

何がわかっているか

「夜更かしをやめさせれば解決する」と思いたくなる一方で、思春期の眠りは、ご本人の意志だけではコントロールしにくい変化が裏側で起きていることが、近年の研究から見えてきています。

研究記事 発達心理学0〜18歳

赤ちゃんから思春期まで――「眠り」はどう変わる?睡眠パターンの発達を追う

赤ちゃんの眠りはレム睡眠が多く頻繁に目覚めますが、成長とともにノンレム睡眠の割合が増え、まとまって眠れるようになります。

乳児期から思春期までの睡眠研究を広く整理したこの総説では、思春期に入るとメラトニン(眠気を促すホルモン)が分泌され始める時間が、おおむね1〜2時間ほど後ろにずれることが報告されています。「眠くなる時刻」自体が後退するため、夜型になるのはやる気の問題ではなく体の仕組みによる変化として捉えられる、という整理です。さらに10〜16歳のあいだに睡眠が足りない状態が続くと、学業成績や注意力、感情のコントロールに影響しやすいことも指摘されています。早朝の登校時間と後ろにずれた体内時計のミスマッチが、慢性的な睡眠不足の温床になりやすい、というのが論文全体のトーンです。

ところが、同じ睡眠不足でも、その「現れ方」は子どもによってかなり違います。

研究記事 発達心理学6〜18歳

睡眠不足のサインは男女で違う?子どもの心と眠りの関係

子どもの睡眠は感情の発達に欠かせませんが、睡眠不足の影響は男女で異なる形で現れやすいことが分かってきました。

子どもの睡眠と感情について男女ごとの傾向を整理したこのレビューでは、思春期に睡眠が乱れると、女の子では不安や気分の落ち込みといった内側にこもるサインとして、男の子ではイライラや落ち着きのなさといった外に現れる行動として表れやすい、と整理されています。ただしこれは個々のお子さまを断定するものではなく、あくまで全体としての傾向です。それでも、「同じ寝不足」でも家族からの見え方がまったく違うことを知っておくと、「うちの子は性格が変わってしまった」と捉えてしまう前に、眠りの状態を振り返るきっかけになります。

サインの違いだけでなく、そもそも「なぜ睡眠が足りていないのか」の背景にも、いくつかのタイプがあるようです。

研究記事 神経科学

「睡眠不足」とひとくくりにしないで。思春期の脳が示す3つのタイプとは?

思春期の睡眠不足は、脳の特徴から「生まれつきの体質」「環境要因」「心の健康リスク」の3つのタイプに分けられる可能性が示されました。

米国の大規模追跡研究のMRIデータをAIで解析したこの研究では、睡眠時間が短い思春期の子どもたちが、脳の特徴から大きく3つのグループに分けられる可能性が示されました。短い睡眠でも心身が安定している「体質的なショートスリーパー」、寝室の光や騒音などの「環境要因」が背景にあるグループ、そして精神的な不調と結びついている「心理的リスク」のグループです。重要なのは、「夜更かし=悪い習慣」と一括りにせず、背景に何があるかを少し時間をかけて見るという姿勢が、研究のレベルでも支持され始めている点です。家庭でできるのは脳画像を撮ることではなく、「日中元気そうか」「眠れない夜に何を気にしているか」を一緒に眺めることだと思います。

「個人差がある」というテーマは、別の角度からも示されています。

研究記事 神経科学

夜ふかしに「弱い脳」と「強い脳」がある?──睡眠不足と注意力の個人差を探るEEG研究

夜通し起きていたときに注意力が大きく落ちる人と、比較的保てる人がいることが脳波レベルで確認されました。

健康な成人45名を一晩起こし続けて注意力を測ったこの研究では、同じだけ寝ていなくても注意力が大きく落ちる人と、比較的保てる人がいることが、脳波のパターンから区別できる可能性が示されました。さらに興味深いのは、本人が自覚する「眠さ」と、実際の注意力の落ち方は必ずしも一致しなかったことです。研究対象は成人で、サンプル数も多くはないため、子どもにそのまま当てはめるべきではない結果ですが、「眠くないと本人が言っているから大丈夫」という見立てが必ずしも正しくないこと、睡眠不足の影響の受けやすさには体質差がありそうなことを示す手がかりにはなります。

最後に、こうした「個人差」を踏まえると、家庭や社会が持ちがちな前提も問い直す必要が出てきます。

研究記事 発達心理学

「寝ないで頑張る」は美徳?――日本の子どもの睡眠不足と武士道精神の意外な関係

日本の子どもの睡眠時間が世界的に見ても短い背景には、「寝ないで頑張る」ことを美徳とする武士道的な文化が根づいています。

日本の子どもの睡眠を文化的視点から整理したこのレビューは、日本では「寝ずに頑張ること」が美徳とされやすい価値観が、子どもの睡眠時間の短さの背景にあると指摘しています。そして、「全員が何時間寝るべき」という一律のガイドラインだけでなく、一人ひとりにとっての最適な睡眠時間を見積もる個別化されたアプローチが改善のカギだ、と提案しています。文化を変えるのは大きな話ですが、家庭の中の「夜更かしして頑張った」を称える小さな声かけを見直すところからは、今日でも始められます。

ここまでをひとことでまとめると、思春期の睡眠不足は「意志の弱さ」ではなく、体内時計のずれ・脳と感情の個人差・社会と文化の前提の3つが絡んだテーマだということが、研究全体から見えてきます。

家庭でできること

「何時までに寝かせる」を完璧に決めるよりも、思春期の体と脳の変化に寄り添うまなざしを少しずつ整える方が、長期的にはラクで効果的なことが多いものです。

「夜更かし=怠け」と決めずに体内時計を思い出す

思春期はメラトニンの分泌タイミングが1〜2時間ほど後ろにずれるため、本人の意志に関係なく眠くなる時刻が遅くなります。「早く寝なさい!」とぶつかる前に、「体の時計が動いている時期だね」と一拍はさむだけで、声のかけ方が少し変わります。

「眠そう」より「いつもと違う」を観察する

睡眠不足は、本人が「眠い」と自覚しないまま注意力が落ちることが研究でも示唆されています。朝の支度がいつもより遅い、ちょっとしたことで泣く・怒る、好きなことに集中できない——そんな「いつもと違う」サインを手がかりに、寝不足が背景にあるかを一緒に振り返ってみてください。

サインの表れ方は男女で違うかも、と頭の片隅に置く

女の子は不安や口数の減少として、男の子はイライラや行動の乱れとして睡眠不足のサインが出やすい、という傾向が指摘されています。「最近性格が変わった」と感じたら、性格や反抗の問題と決めつける前に、ここ1〜2週間の眠りの状態を一緒に眺めてみるとヒントが見つかることがあります。

背景は1つに決めず、3つのレンズで眺める

研究では、睡眠が短い背景に「体質」「環境(光・音・スマホ)」「心の不調」の3タイプがあると整理されています。「うちの子はどれだろう」と決めつけずに、日中の元気さ、寝室の光や音、最近の気持ちの様子という3つのレンズで、しばらく観察してみてください。

「何時に寝るか」を本人と一緒に探す

論文では、一律の就寝時刻より、一人ひとりに合った最適な睡眠時間を見つけるアプローチが提案されています。中学生以降は、「あなたにとってどれくらい眠れた日が一番気持ちいい?」と聞いてみる時間を作ると、自分の体に意識を向ける土台になります。

頑張り=睡眠を削る、という空気を家庭から外す

「徹夜で勉強して偉い」と褒めたり、大人自身が寝不足自慢をしたりする空気は、日本の文化的に根強いものとして研究でも指摘されています。「しっかり寝て朝スッキリできたね」と切り替える声かけは、子どもへの長期的なメッセージとして地味ながら大きな効果を持ちます。

スマホを完全に取り上げたり、毎日同じ時刻に寝かせきったりする必要はありません。研究が示しているのは個別の正解ではなく、体の変化を信じ、サインを丁寧に拾い、空気から見直していくという方向性です。今日いきなり整わなくても、関わりの方向が合っていれば十分です。

専門家に相談する目安

思春期の眠りの揺れは、多くのご家庭が通る道です。「何時間以下なら病気」という明確な線引きがあるわけではなく、迷ったら相談してみる、で構いません。睡眠時間の数字そのものより、お子さまの様子や、ご家族の感覚を手がかりにしてみてください。

たとえば次のようなときは、学校の保健室・スクールカウンセラー、かかりつけの小児科や思春期外来、自治体の子育て・思春期相談窓口に一度声をかけてみると安心です。

  • 朝起きられず学校に行けない日が2週間以上続いている
  • 気分の落ち込みや不安が長く続き、好きだったことにも興味を持ちにくくなってきた
  • イライラや衝動的な行動が増え、ご本人も家族もつらいと感じている
  • 「眠れない」「寝てもスッキリしない」と本人が訴えているのに、生活の調整だけでは改善しない
  • スマホやゲームを止めようとすると激しく抵抗し、生活全般(食事・登校・対話)に影響している
  • 親自身が「叱り続けるしかない」と消耗していて、関わり方そのものが辛くなっている
  • 家族のシフト勤務、引越し、進学など、家庭側の事情で生活リズムが大きく崩れている時期と重なっている

相談は「睡眠障害と診断してもらうため」だけのものではありません。「最近この件で家族が消耗している、話を聞いてほしい」だけでも十分な相談理由です。早めに第三者の視点が入ることで、家庭で続けられる工夫の輪郭や、ご家族自身の休み方が見えてくることもあります。

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