イヤイヤ期はどう関わる? 縦断研究から考える、長く効く接し方の土台
「イヤ!」と泣き叫ぶ我が子にどう応じるのが良いか、迷うことはありませんか。10年以上の縦断研究をもとに、目先の行動を止めること以上に大切な、親子関係の土台になる関わり方をやさしく整理しました。
3つのポイント
- 1
イヤイヤ期の反抗的なふるまいそのものよりも、その背景にある「親子の安心感」が将来に効いてくる、と複数の縦断研究が示しています。
- 2
「気持ちを受け止めてから、必要な線引きを伝える」という順番が、長い目で見ると協力的な親子関係に繋がりやすいと考えられています。
- 3
すぐ収まらないのが普通の時期です。家庭での工夫だけでは辛いときは、迷わず園や相談窓口に声をかけて構いません。
「朝の着替えで号泣」「スーパーの床に寝そべって動かない」——2歳前後から始まる、いわゆるイヤイヤ期。一日のうち何度も繰り返されるやり取りに、「どう接するのが正解なんだろう」と立ち止まってしまう瞬間は、多くのご家庭にあるのではないでしょうか。
このページでは、「泣き止ませる」「言うことを聞かせる」ためのテクニックではなく、長く効いてくる関わりの土台に絞って、発達研究の知見を整理します。一方で、特定の発達特性の見分け方や、月齢ごとの細かな対応マニュアルには踏み込みません。気になる症状がある場合は、最後の「専門家に相談する目安」も参考にしてください。
何がわかっているか
イヤイヤ期に強く反抗的な姿を見せると、「このままで大丈夫なのかな」と将来が不安になってしまうかもしれません。発達研究の知見を眺めると、まず押さえておきたいのは、その時期の「やめられない」「待てない」自体が脳が育っている途中の自然な姿である、という視点です。
「やめられない」を科学する――抑制制御と脳刺激研究が子育てに教えてくれること
「わかっているのにやめられない」背景には、脳の前頭前野がつかさどる抑制制御の弱さが関わっていることが改めて注目されています。
衝動を抑えたり、やりたいことを我慢したりする力(抑制制御)は、脳の前頭前野が担っており、思春期から20代前半まで長い時間をかけて育ち続けることが知られています。この研究は成人の依存症に対する臨床試験のプロトコル(計画書)で、子どもの介入を直接扱ったものではありませんが、そこで前提とされているのは「大人でも抑制制御は完璧ではない」という事実です。2-3歳の「やめられない」を意志の弱さやしつけの足りなさで説明する必要はなく、まずは「脳がまだ工事中なんだな」と捉え直す手がかりになります。
そのうえで、長期間にわたって親子を追いかけた研究を眺めると、長期的なアウトカムを左右しているのは反抗の量ではなく、その時期に親子の間でどんな安心感が育っているか、という視点であることが見えてきます。
安定した愛着は「イヤイヤ期」の最強の緩衝材? 10年間の追跡調査が示す、親子関係の未来
乳児期(15ヶ月)に安定した愛着を築いた子どもは、幼児期に反抗的な態度を示しても、10代での問題行動に繋がりにくいことがわかりました。
102組の親子を約10年追いかけた縦断研究では、乳児期(15ヶ月時点)に安定した愛着が築かれていた親子では、その後の幼児期に反抗的な行動がよく見られても、思春期前期の問題行動には繋がりにくい、という傾向が報告されています。逆に、乳児期の愛着が不安定だった場合、幼児期の反抗が将来の親子関係の悪化や問題行動に繋がりやすい傾向が見られました。「反抗の量」よりも、その背景にある親子関係の安定感のほうが、長期的なアウトカムを左右しているのかもしれない——そんな示唆を与えてくれる研究です。
この「安心感」は乳児期だけで決まってしまうものではありません。次に紹介する縦断研究は、幼児期以降の関わりも親子の協力関係を更新し続けている、という発達のカスケードを丁寧に追いかけています。
イヤイヤ期の「安心感」が、将来の「素直さ」を育む? 親子の絆の長期的な影響を追った研究
幼少期に親との間に『ここにくれば大丈夫』という安心できる絆が築かれていることが、子どもの成長の土台になります。
2〜3歳頃に親を「安全基地」として頼れていた子どもは、幼児期後半に親に対して協力的な態度(親のお願いを素直に聞こうとする姿勢)を示しやすく、その協力的な態度がさらに学童期以降の社会性に繋がっていく——という「発達のカスケード」が示されました。「先に行動を従わせる」より「先に安心感を渡す」順番のほうが、結果として子どもが親と協力する力を育てやすい、と読み取ることができそうです。
ただし、「優しさ=何でも言いなりになる」ではない点も、研究は示しています。
厳しすぎるしつけは逆効果?子どもの「共感力」が見せる意外な反応
「厳しすぎるしつけ」の影響は、子どもの共感性の高さや傷つきやすさによって変わる可能性があります。
中国の青年1085名を対象にした縦断調査なので、文化的な背景も含めて日本の幼児期にそのまま当てはまるとは言い切れませんが、参考になる知見があります。子どもの気持ちを無視して罰や圧力でコントロールしようとする「強圧的なしつけ」が、特に共感性の高い子どもにとっては逆効果となり、問題行動を増やしうることが報告されています。「言うことを聞かないならおやつ抜き」のような脅しや、人格を否定するような叱り方は、短期的には行動を止められても、年齢が上がった時期の研究では、親子の安全基地としての機能を弱める可能性が示唆されています。
最後に、親側の心のあり方にも目を向けた研究をひとつ。
ママの「心の台本」が、子どもの安心感を育む? 愛着関係を予測する研究
お母さんの心の中には、子どもが困った時にどう対応するかの『物語の台本(安全基地スクリプト)』があります。
低所得など心理社会的なリスクを抱える環境にある母子100組を対象にした研究では、お母さんの心の中に「子どもが困った時にどう寄り添うか」という物語(安全基地スクリプト)が豊かに描けているほど、1歳・2歳時点での子どもの愛着の安定度が高い傾向が見られました。完璧な対応そのものよりも、「困っている我が子をどう受け止めるか」という心の中の手順が、関わり方の質に静かに効いているのかもしれません。なおこの研究はサンプルの背景もあって一般家庭にそのまま敷衍できる結果ではなく、相関関係を示すもので心の台本が原因で子どもの安定が決まる、という因果関係を証明したわけでもない点に留意が必要です。
ここまでをひとことで言うと、「イヤイヤ期の反抗をどう止めるか」よりも、「反抗してくる我が子を、どう安心させながら受け止めるか」に目を向けたほうが、長期的なアウトカムに沿った関わりに近づきやすそうだ、ということになります。とはいえ、毎日の現場でその通りに振る舞うのが難しいのは、研究者も承知のうえ。ここから先は、家庭で少しだけ意識してみたい関わりを整理します。
家庭でできること
毎日の暮らしのなかで、無理なく取り入れやすい関わりを、研究の知見と結びつけて整理してみます。
行動を止める前に、気持ちを言葉にする一拍を入れる
「片付けなさい」より先に、しゃがんで目線を合わせ、「このおもちゃで遊ぶの、楽しかったんだね」と一言。気持ちを受け止められた経験が積み重なることが「安全基地」を強くし、結果として協力的な態度に繋がっていく、というのが縦断研究からの示唆です。
「共感する」と「言いなりになる」は別物と考える
気持ちを受け止めることと、危ないこと・許されないことを毅然と伝えることは両立します。「気持ちは分かるよ。でも道路には飛び出さないよ」のように、共感のあとに線引きを置く順番が、強圧的な関わり方を避けつつ必要な枠組みを伝えるアプローチに近づきます。
叱ったあとの「いつもより不安そうな顔」に気づく
強い言葉が響きやすいお子さんもいる、という観察が研究からも報告されています。叱った直後にいつもより静かだったり、表情が固まっていたら、「さっきの言い方、ちょっと強すぎたかも」と一拍だけ立ち止まる、というのも一つの目線です。叱り方を毎回変える必要はありませんが、振り返る視点を持つこと自体が、関わりの質をゆるやかに変えていきます。
親自身の「心の最初のひと言」を観察する
お子さまが泣き出した瞬間、自分の頭に最初にどんな言葉が浮かぶか——「またか」「面倒だな」「どうしたの」など——をそっと観察してみてください。良い・悪いの評価ではなく、自分の中の「台本」のパターンに気づくこと自体が、関わり方をしなやかに変えていく入り口になります。
「今日はうまく関われなかった日」を、責めずにそっと置く
毎日穏やかに応じきれるご家庭は、おそらく存在しません。一日単位の出来不出来ではなく、「ここ数週間で、笑い合えた瞬間や、ぎゅっとしてくれた瞬間はあったか」を週単位で振り返るほうが、親子関係の土台の手応えは見えやすくなります。
逆に、家庭で意識しなくてよいこともひとつ添えておきます。「言うことを聞かせられた回数」を他のお子さんと比べたり、毎回完璧に冷静でいようと頑張りすぎたりする必要はありません。研究が示しているのは、個々の対応の正解ではなく、やり取りを重ねるなかで安心感が積み上がっていく方向だからです。
専門家に相談する目安
イヤイヤ期は、発達のなかで多くのお子さまが通る自然な時期で、何歳までに終わるという明確な区切りもありません。それでも、家庭の工夫だけでは辛くなってきたとき、相談していい目安はあります。迷ったら相談する、で構いません。
具体的な「年齢」や「期間」を厳密な基準にするより、ご家族の中で気にかかってきた感覚を大切にしてみてください。たとえば次のようなときは、保育園・幼稚園の先生、かかりつけの小児科医、自治体の子育て支援センターや発達相談窓口に、一度声をかけてみるのが安心です。
- 癇癪の長さや頻度が、家庭・園のどちらでも気になってきている
- 自分や周りを傷つけてしまう行動が出ていて、ご家族が止めるのが難しい
- ご自身が「怒鳴ってしまう」「手が出そうになる」と感じる瞬間が増えてきた
- 下の子の妊娠・出産・引っ越しなど、ご家庭側の余裕が一時的に削れている時期と重なっていて、関わり続けるのが辛い
- 父親・祖父母など複数の養育者の間で関わり方の温度差があり、お子さまの様子も揺れているように見える
- イヤイヤ期と言われる時期を過ぎても、切り替えの難しさや生活リズムの乱れが、ご家族の生活を圧迫している
相談は「診断をつけるため」だけのものではありません。「最近しんどい、話を聞いてほしい」だけでも十分な相談理由です。早めに話してみることで、家庭で続けていく工夫の輪郭や、ご家族自身の休み方が見えてくることもあります。
次に深く読むなら
安定した愛着は「イヤイヤ期」の最強の緩衝材? 10年間の追跡調査が示す、親子関係の未来
乳児期(15ヶ月)に安定した愛着を築いた子どもは、幼児期に反抗的な態度を示しても、10代での問題行動に繋がりにくいことがわかりました。
続きを読むこのテーマで紹介した研究記事
5件- 発達心理学1〜12歳 longitudinal
安定した愛着は「イヤイヤ期」の最強の緩衝材? 10年間の追跡調査が示す、親子関係の未来
乳児期(15ヶ月)に安定した愛着を築いた子どもは、幼児期に反抗的な態度を示しても、10代での問題行動に繋がりにくいことがわかりました。
- 発達心理学2〜12歳 longitudinal
イヤイヤ期の「安心感」が、将来の「素直さ」を育む? 親子の絆の長期的な影響を追った研究
幼少期に親との間に『ここにくれば大丈夫』という安心できる絆が築かれていることが、子どもの成長の土台になります。
- 発達心理学1〜2歳 longitudinal study
ママの「心の台本」が、子どもの安心感を育む? 愛着関係を予測する研究
お母さんの心の中には、子どもが困った時にどう対応するかの『物語の台本(安全基地スクリプト)』があります。
- 発達心理学longitudinal
厳しすぎるしつけは逆効果?子どもの「共感力」が見せる意外な反応
「厳しすぎるしつけ」の影響は、子どもの共感性の高さや傷つきやすさによって変わる可能性があります。
- 神経科学RCT
「やめられない」を科学する――抑制制御と脳刺激研究が子育てに教えてくれること
「わかっているのにやめられない」背景には、脳の前頭前野がつかさどる抑制制御の弱さが関わっていることが改めて注目されています。