コロナ禍は幼児の「実行機能」にどう影響したか? 2.5歳から6.5歳の縦断研究
原著論文: Tracking the trajectory of executive function from 2.5 to 6.5 years of age and the impact of COVID-19.
著者: Johns, E, Forbes, SH, Delgado Reyes, LM, Buck, C, Spencer, JP
論文公開:
3つのポイント
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この研究は、2.5歳から6.5歳の子どもたちの「実行機能」という、目標のために行動をコントロールする力を長期的に追跡しました。
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その結果、母親の学歴が高い家庭の子どもは実行機能が高い傾向があり、この能力には個人差が安定して見られることが分かりました。
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また、コロナ禍のロックダウンを就学前に経験した子どもは、小学生で経験した子どもよりも実行機能が大きく伸びていました。
実験デザイン
本研究では、139人の子ども(女子71人)を対象に、2.5歳から6.5歳までの実行機能の発達を縦断的に調査しました。子どもたちは、タブレットベースの「ミネソタ実行機能尺度(MEFS)」を用いて、3〜4回にわたり評価されました。
分析の結果、以下の主要な効果が示されました。
- 家庭環境の影響: 母親の学歴が高い子どもほど、実行機能のスコアが高い傾向が見られました。
- COVID-19ロックダウンの影響: ロックダウン時に就学前(保育園・幼稚園)だった子どもは、小学校1年生だった子どもと比較して、その後の実行機能の成長曲線がより急勾配であることが示されました。これは、ロックダウン中の家庭での親との密な関わりが、就学前の子どもの認知発達を促進した可能性を示唆しています。
以下のグラフは、ロックダウンを経験した年齢層による実行機能の成長曲線の違いを模式的に示したものです。
| 系列 | 年齢(歳) | 実行機能スコア(想定値) |
|---|---|---|
| 就学前にロックダウンを経験 | 2.5 | 40 |
| 就学前にロックダウンを経験 | 3.5 | 55 |
| 就学前にロックダウンを経験 | 4.5 | 75 |
| 就学前にロックダウンを経験 | 5.5 | 90 |
| 就学前にロックダウンを経験 | 6.5 | 100 |
| 学童期にロックダウンを経験 | 2.5 | 45 |
| 学童期にロックダウンを経験 | 3.5 | 55 |
| 学童期にロックダウンを経験 | 4.5 | 65 |
| 学童期にロックダウンを経験 | 5.5 | 75 |
| 学童期にロックダウンを経験 | 6.5 | 85 |
古典知見との接続
本研究の結果は、 レフ・ヴィゴツキー 発達の最近接領域 ヴィゴツキーが提唱した概念。子どもが一人ではできないが、大人の援助があればできる範囲のこと。 の社会文化的発達理論、特に 「発達の最近接領域(ZPD)」 発達の最近接領域 ヴィゴツキーが提唱した概念。子どもが一人ではできないが、大人の援助があればできる範囲のこと。 の概念と強く結びつきます。ZPDとは、子どもが独力でできることと、他者(特に大人や年長者)の助けを借りればできることの間の領域を指します。
母親の学歴が高い家庭の子どもが高い実行機能を示したという結果は、そうした家庭環境において、親が子どものZPDに対して効果的な 「足場かけ(スキャフォールディング)」 足場かけ 学習者の理解レベルに応じて適切な支援を提供し、徐々に支援を減らしていく教育的介入手法。 を行っている可能性を示唆します。親が提供する豊かな言語環境や知的な刺激、適切なサポートが、子どもの自己制御や計画性といった実行機能の発達を促していると考えられます。
また、ロックダウン中に就学前だった子どもの実行機能が大きく伸びたという発見も、この文脈で解釈できます。学校や園という集団生活の場が失われた一方で、家庭内で保護者と過ごす時間が増加しました。この密な相互作用の中で、親が子どもの発達レベルに合わせた「足場かけ」を意図せずとも提供する機会が増え、結果として実行機能の急成長に繋がった可能性があります。これは、子どもの認知発達における周囲の大人との相互作用の重要性を改めて浮き彫りにしています。
プロダクトインサイト
本研究は、特に幼児期において、家庭環境や親との関わりが実行機能の発達に大きな影響を与えることを示しています。「すくすくベリー」アプリは、この知見を活かし、保護者が子どもの発達を効果的にサポートできるような機能を提供すべきです。具体的には、子どもの発達段階に応じて、親が実行機能の発達を促す「足場かけ」となるような具体的な関わり方のヒントを提示する機能を追加することが考えられます。例えば、「お片付けゲーム」や「お買い物ごっこ」といった日常の遊びの中で、計画性や注意の切り替えを自然に促す声かけの例などを提案することで、保護者が子どものZPDに働きかける手助けができます。